恋愛携帯小説シリーズ

猫と蝶と僕⑨

涼子が帰った、アスカと僕二人のアパート。


僕も色んな場面とか会話を予想してたけど…。




「涼子さんって、いい人だねぇ…。ケイタまさか、涼子さんが元カノとかじゃないよね?」

アスカは少し嫌みのように僕に話しかけてきた。

「いやいや!元カノじゃないよー!ニ、三ヶ月前かなぁー、車ぶつけられてよ…。それからかなぁ、付き合いは。」

「ふーん…。何それ?付き合いって?連絡取ってるの?てかさぁー、前にカモミールで会ったよねぇ?エントランスのとこで…。」

「あー。飯食いに行ったときねぇ。てかっ、連絡なんて取ってないよ。」

何気無く返した会話だったが…。


「ねぇー!よくそんな簡単な言葉で、飯食いに行ったときね。とか言えるよね…。」

「はぁ…?だから、今はなんでもないって!!ただ、飯食いに行っただけじゃん。しかも、あの時は、アスカと、付き合ってなかったし…。てか、なんでそんなに突っかかってくんだって?」

別に僕も怒るわけではなかったけど、アスカの口調に腹がたって、少し強い言動になってしまった。

「どぉせ、私が居ないところで、涼子さんとLINEとかしてるんでしょ?」

「だから!してないって!しかも、アスカと付き合ってから、連絡先とか消したし!別によくない?あの手紙のわだかまりが、解けたんだから…。」

「てか、付き合う前に私と連絡してるときに、二人でデートしてたでしょ?私はなんだったの?キープ?だったの?」

アスカの口調が激しくなるに連れて、僕も更に腹がたって行く。

「だからっ!キープでも何でもないし、あの時はあの時!ふつーに、飯食いだけだったから!」

「もぉー、いーよぉ!ちょっと頭冷やしてくる!」

アスカは、バックを持ち思いっきりドアを開けて出て行った。


結局、アスカはアパートから出て行ったまま、夜になっても帰ってこなかった。

頭を冷やしつつ、夕暮れに染まる西の空を眺めていた。

なぜ、あの時アスカに対して、もう少し冷静になれなかったのか…。

しかも、スマホのLINEさえも確認しなかった。


ベランダでタバコを吸おうと、ポケットからグチャグチャになった、セブンスターのソフトを取り出す。

小さく舌打ちしながら、最後の一本に火をつける。

タバコが短くなるにつれて、西日が少しずつ弱まる。

いつもなら、好きな夕暮れ…。
今日だけは、みる気にならず、タバコをもみ消し、ベランダの鍵を閉め、カーテンさえも閉めた。

右腕に時計を付け、財布とライター、携帯、必要最低限の荷物で、街に繰り出した。

以前住んでたアパートより、今住んでるアパートの方が繁華街には近かった。

歩いて15分ほど…。

繁華街のイルミネーションが、当ても無く歩く僕を、繁華街に導いているようだ。


繁華街のアーケード内。


「只今の時間、入店いただくと生ビール一杯半額でーす!」

呼び込みのアルバイトの声。

聞く気にもならず、静かな通りを歩きたかった。

アーケード内に入って、すぐ右手に折れると、少し静まりかえった居酒屋街。

引っ越してから、行きつけになった古ぼけた焼き鳥屋に入った。

いらっしゃいませの声も無く、カウンターに座る僕を見て、大将は黙って生ビールを、ドンッと置く。

ジョッキは凍っていて、冷たかった。

まるで、僕とアスカの関係のように…。


僕も大将と目を合わせることなく、ジョッキ半分ほど一気飲み…。

通しと焼き鳥数本、生二杯、そして芋焼酎水割り。

これがいつもの僕のコース。
何も言わなくても、大将は分かってるのだ。
飲み物がなくなった頃、みはからって、黙ってドンッ!

そんなやり取りが小一時間。


僕は人差し指で、大将に向かって、バツを作る。

2000円を差し出し、店を後にした。無口な大将だが、そこに大将なりの気遣いがあるのだ。

結局、大将とは何も話さなかった。


少しほろ酔い気分で、少し薄暗いスナック街を一人歩く。

アーケードからは、少し離れているせいもあってか、客足も少なく、静まりかえる通り。

一人だけ、おじさんとすれ違った。


歩いて数百メートルだろうか…。


あるスナックの前で立ち止まる。
一度も入ったことが無い店だったが、看板の名前と色が気になった。


(スナック、butterfly)

しかも青い看板。

蝶かぁ…。



ぼぉーとして看板を見つめていると、木製の味気あるドアが静かに開いた。



全てドアが開く前に僕は呆然とした。






「りょ、涼子⁉︎」

「えっ⁇ケイタ⁈」


青と黒を基調にした、無数のラインストーンが散りばめられたロングドレス姿の涼子。


「少し飲んでくぅ?」

「あっ。ぅん…。お客さんは?」

「ゼロ、ゼロ…。ママも諦めて、帰っちゃったから、私一人で切盛り。」

と、苦笑いの涼子。

「水割りでいーんだよね?」

「ぅん…。」


製氷機からアイス、冷蔵庫からミネラルを出しながら、涼子はカウンターに座る僕を気にしている。



「はいっ!どぉぞぉ。」

コースターの上に、グラスを置くと、涼子は店の看板を消し、ドアに鍵をかけた。

すると、カウンターの僕の横に座り、
「一緒に貰っていい?」

「ぅん…。いいけど、俺長居はしないよ…。」


グラスとグラスを軽く重ね合わせ、静かなスナック内に、小さく響く。


何も話さない僕に対して合わせてくれていたのだろうか、涼子もほとんど話さない。


1時間ほどだったか…。

「ねぇ〜?ケイタ、この後何か用事あるの?」


「ん?特には何もないけど…。どぉせ今日はアパートに帰っても一人だし!」


「ふーん…。この後さぁ〜、どっか飲み行かない?」


「そだねぇ〜?久しぶりだし、行こっかぁ?」


涼子はドレスから私服に着替え、奥から出てきた。


「ごめん…待たせちゃって。じゃぁ、行こっかぁ?」

ドレスと私服では、また違う雰囲気の涼子に、異性に対しての感情を覚えてしまった。

涼子と僕は、スナックを後にして、夜の繁華街に消えて行った。