猫と蝶と僕⑥

猫と蝶と僕⑥


アスカとのどちらに転ぶか依然不明なままの夜間飛行ドライブ。

アパートを出てから二時間は、会話がなかった。

というよりも、アスカは完全シカト状態。

正直、「何でドライブに誘ったんだよ!」って心底思った。
女心がほんとに読めない男だ、僕は…。

タバコの吸殻が徐々に増え、比例して気まずさも増える。


車内には、the GOSPELLERSの「靴は履いたまま」(※①)が聞こえるか、聞こえないかの音量で流れている。

この楽曲は、数年ほど前まで、いや現在も放映されているが、当時、久米宏さんが司会を務める報道ステーション(※②)というニュース番組の主題歌だ。

あの当時、司会者である久米宏さんが番組の降板挨拶の際放った言葉。

「私が、この番組の話を頂いた時、最初は、二年契約で受け取りました。ですが、気づけばもう十数年。これも視聴者の皆様のおかげです。十数年も一つの番組を続ける事の難しさ、私は痛感いたしました。」


この言葉を聞きながら、BGMで流れる「靴は履いたまま」という楽曲。


なぜか、ものすごく心に響き、次の日ネットで調べ即購入した程だ。

ここでだ。

久米宏さんが二年契約で番組を勤め、そして結果的に十数年も続いた。

これって久米宏さんの人間性、創造性があってこそ続いたと僕は思う。

好きな番組だから視聴する。
いつも見ているから視聴する。



夜は、あの番組で晩酌をし、終われば床につく。

こんなパターンの平日を送った方もいるだろう。

僕は、十数年の久米宏劇場は、続く理由に「運命」すら感じた。久米宏さんは、あの番組を最初から続ける運命だったんだ。

アナウンサーの久米宏さん側からは、分かりやすいニュース提供を、そして僕ら視聴者は、久米宏さんが司会だから。というような相思相愛的な感情を想像できた。

ただ、いくら優秀な番組でも、いつまでも続くわけがない、やはり終わってしまうのか…。というような「運命」も感じたが。

この話の冒頭でも少し触れたが、「運命とはある程度事が確定してから形成されるものではないか?」の言葉の意味を痛感されられた一コマだった。

ニュース番組、ドラマ、或いはメディアという生き物は、ある一種の出逢いや、思いつき、趣味まで簡単に想像させてくれる。

自宅に帰りテレビをつければ画面に久米宏、片手に缶ビール。

独身の僕だったが、家に帰れば嫁と飯というように。


なぜかここまで久米宏劇場を熱く語れてしまう。


ニュース番組での歌詞は「シャララ」しか無いが、ピアノの伴奏と、彼ら五人の心地よいハモりが、二人の空気感、距離感を逆に気まずくしているのは分かっていた。

なぜなら、この楽曲の歌詞付きバージョンを知ってしまっていたから。

旋律は心地よく耳に入り、その上サビの部分の歌詞が曲自体を最高傑作へと作り上げている。


勿論、アスカは歌詞を知らない。




この楽曲の本当の歌詞…。





「サイコーの夜にしよう🎶」のサビ。






最高の夜にするか、このまま最低の夜でアスカとの関係を終わらすか…。

この二人の空気感を打開できるかは僕自身にかかっている。



(分かっている…。勘違いを払拭しなければ…。分かっている。でも、なんて会話を切り出そうか…。本当はわかっているんだ。)



そう何度も自分に問いかけた。





出発して二時間半。





会話を切り出したのは…。






アスカだった…。



「ねぇー?ナビも設定しないで、どこ向かってるの?」

アスカの初めて言葉。



「あ!ぅん…。」

久々の会話で、僕は何て返事をすればいいのか戸惑った。

「ぅん…。じゃないよー!」

「…………。」
僕は無言。

「ねぇー?もぉ怒ってないからっ!ちゃんと質問に答えてよっ!」

「織姫公園…。」

やっと出た言葉。

織姫公園は、栃木県足利市にある、日本夜景百選に選ばれる夜景スポット。
(引用)
http://yakei.jp/japan/spot.php?i=orihime

「アスカ…。俺ほんとに昨日飲んだ人とは何でもないから…。ただ相談聴いてもらっただけだから…。」

「もぉ…わかったから!その言葉信じるからねっ!」


恐る恐る助手席のアスカの方へ目をやる。

確かに、涼子とは体の関係は一切なかった。

なぜか、それだけは自信があった。
しっかり断ったんだ。


「ねぇ!!なんか喋ってよ!」

アスカは少し微笑む。

「あれ…公園の入り口ここだったっけかなぁ…。」

とナビをいじる僕。

「最初からナビ設定してから来れば良かったじゃん?だからケイタは詰めが甘いんだよ!」

とすかさず横槍を入れるアスカ。

でもその頃、アスカの表情は笑顔に変わっていた。







この二人の会話が終わる頃、僕たち二人は、織姫公園の山頂に到着した。


アスカは夜景を車内から確認すると同時に、助手席のドアを思い切り開けて飛び出した。

周囲には、車も止まってる様子も無く、ひと気も全くない。

街路灯が二つ、三つチカチカとついたり消えたり。

僕は、突然のアスカの行動に、慌ててアスカを追いかけた。

「アスカー!真っ暗だから、危ねーぞぉ!!足元気をつけねーとっ!」


「えっー⁈なーにっ⁈ケイタも早く来なよ!すっごく綺麗だよ!」

やっとのことでアスカを追いかける僕。

アスカは再び僕のところまで戻ってきて、僕の手を引き、展望台まで引っ張っていく。






「日本の夜景百選に選ばれてるんだって!」
と、僕。

「てかさぁー!ケイタ!こんな綺麗な夜景知ってたんなら、もっと早く連れてきてよー!」

アスカは、数分間夜景を見つめて何も発しない。

「なぁー?」
と、同時に、
「ねぇー?」
と、アスカ。

「なにっ?先言っていーよぉ!」

「いやっ!そっちが先でしょ?」


「明日休み?」
と僕。

「ぅん…。ケイタわぁ?」
とアスカ。

「ぅん…。休みぃ。」
ほんとは、休みではない…。でもとっさに出た言葉。

その時点では、明日は風邪を理由に休もうと思ってた。

「ケイタって!ほんっと嘘がヘタ!」

「はぁー?」

「顔に書いてあるよ!バリバリ仕事だよって!」

「………。」
沈黙する僕。

「ほらっ!まただんまり!ケイタ得意の!」





すると、僕は夜景に向かって、




「今、仕事より大事な事がある!大切な人の隣に、できるだけ寄り添っていたい俺がここにいる!仕事一日を蹴ってでも一緒にいたい奴がここにいるーーーー!」

と、叫んだ!



アスカは突然の僕の大声に、びっくりして、僕を見つめる。


すると、アスカも夜景に向かって、

「わたしも、明日を忘れられるくらい素敵な思い出を作れる人の隣にいたいーーー!すっごくウソがヘタくそで、不器用な人だけど、すっごく優しい人ーーー!この先も一緒に、ずっとずっとずっと!一緒に居たいと思ったー!!!」


僕はアスカの方をあえて見ず、

「いっつも勝手で、ワガママだけど、甘え上手で、笑った顔が可愛くて、守ってあげたくて、、、」

と、僕が立て続けに叫ぶと、アスカは僕の方へ突然駆け寄って来て、僕に抱きついた。

「びっくりしたっ?!重いでしょ?」

と、アスカ。

突然の事にアスカの瞳を見つめる度、鼓動が高鳴る。

「いや!重くはないけど!」


「ちゃんと告白してよねっ!バーカっ!」
と、アスカ。

「告白したよ!」

「さっきのはさっきの!ちゃんと言って?!全く女心が全くわかんない男!」


「好きだよ…。」
と、小さな声で僕。

「えーっ⁈聞こえない!さっきの叫び声はどこ行ったの?」

「だから好きだって!」

「もっと大きな声でっ‼︎」


「だ!か!ら!好きだってっ!!ずっと一緒に居てくれって!!!」


「やればできるじゃん!」
と、上目線でアスカ。


この日アスカと僕は正式に恋人関係になった。

ドライブの帰りは、幸せな車内だった。

これ程までに幸せな感情は、忘れかけていたから…。

なおさら…。

優しい言葉見つけてはアスカに伝え、アスカもその言葉を更に愛のこもった言葉で返してくれる。


「最高の夜にしよう🎶」

本当に最高の夜になった。

The GOSPELLERSの楽曲の様に。

まるで最初から最後まで、ドラマの様な夜間飛行だ。

そんな幸せな恋愛が、この先も続いてくんだと思っていた。



二人はアパートに到着し、その日アスカは僕のアパートに泊まって行った。

アスカがシャワーを浴びてる時、ふと携帯を確認する。


涼子からのLINE。



僕は、もうアスカと恋人関係だし、真剣に付き合い出したアスカに対して、後ろめたさとか、傷つけたくないという気持ち…。いや!それ以上にアスカを好きだから、もぉ涼子とは関係を持たないと決心した。

LINEをブロックした。電話番号も消した。



そんなこんなで、アスカは仕事が終わると、僕のアパートにほぼ毎日のように来てくれた。

毎日二人で料理して、一緒に食べて、飲む時は飲んで。

半同棲の様な、新婚生活の様な、幸せな毎日だった。

涼子の存在なんて、正直忘れていた。


うだるような夏の夕暮れ。

会社から帰宅して、ふとアパートのドアに着いている郵便物を確認する。

電気の領収書と、何も書いていない封筒が一枚。

鍵を開けて、室内で封筒内を確認する。



僕は正直焦った。焦りより恐さの方が大きかった。


(最近、LINEも返してくれないね。あとケイタのアパートに女の子がいるみたいだね。彼女でもできたのかな…。私は今後どうすればいーのかな…。涼子。)

と、赤い字で。


室内の暑さからくる汗ではなかった。完全に冷や汗だ。

アスカが帰ってなかったから、まだ良かった。

僕は焦りながらも、その手紙を、小さく小さくちぎり、アパートの前を流れる側溝に流した。

猫と蝶と僕11

猫と蝶と僕11


左も右も色鮮やかなネオンを発したラブホ街。


当然、僕も涼子もチラチラと目が泳ぐばかり。



ラブホ街を数十メートル歩く二人。

依然手も繋がぬまま、絶妙な距離間を保つ二人。

この距離間は一体何なのか?

いつもの酔っ払いの僕なら、思いっきり手を組んで、


「ここのホテルでいーじゃん!入ろっ!」


ってエスコートできていたはずなのに…。


何度も自分に問いかけた…。

アスカに対しての…、恋人がいながらの…、ただの穴埋めから来る申し訳なさなのか…。

それとも、涼子をアスカ以上に大切な人と思えつつある人になってきているからなのか…。

僕も涼子も異性と、ラブホに立ち寄った経験は無いわけではなかったが…。



今は、アスカと微妙な恋人関係。少しのすれ違い、小さな口喧嘩から産まれてしまった大きな溝。

そして、たまたま夜の世界で対峙してしまった涼子との友達以上、恋人未満の関係。





やはり、アスカは猫…。


喧嘩して勝手に出て行ってしまったアスカ。
何も応えない猫のようなアスカ。
あれだけ僕に頼って、なついていたのに…。少しの溝が、こんな結果を招いている事実。

結果というのは、寂しさを埋めるための夜の散歩、そして会ってはいけなかった涼子との偶然の再会。






そして、涼子は蝶…。


甘い蜜に誘われて、もしくは自分の弱さとか、寂しさを埋めるために、たまたま再会した涼子を追ってしまった僕。
涼子は、蝶のように、居酒屋街から、ラブホ街に飛んで行き、僕はその綺麗な振る舞いに心奪われてしまう。


さらには僕…。同じ庭、フィールドの中で、三人そのものの性格やら、恋愛背景、今までの過去、そして今後の未来までも描いてる上に、想像さえもできてしまうのだ。


アスカと涼子と僕。

そして、アスカである猫と、涼子である蝶。


僕は何を信じて、誰を好きになり、そして誰を愛し、誰から愛を分けてもらえるのか…。

卑怯で、かつ汚いまでの三人の関係を美化するもの…。そして貪欲なまでの、自分の心に空いた穴を埋めて欲しいという感情。



涼子とたどり着いた場所、ラブホテル『blue butterfly』

地元のカップルの中では、ブルバタと呼ばれ、青くライトアップされたホテルの装いは、酷く美しさを醸し出す。

この青い城の中で、どれだけの愛を育むカップルがいたのだろうか…。

それが、正真正銘の愛でも、下心丸出しの恋でも、浮気でも、不倫でも…。


涼子との過ちと考えるか、これで良かったんだってと考えるか…。

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猫と蝶と僕⑩



涼子の勤めるスナックからほんの数百メートル。

薄暗いスナック街から、賑やかな繁華街にでる。



時間は24時を回っていた。



僕も以前、ドレス姿の夜のお店の子とアフターをした経験はあったが、今日アフターで付き合ってくれている涼子は全くの私服…。しかも、アフターではなく、ただの個人的な付き合いで夜の街をほっつき歩いている。


もっと言うなれば、全く関係のない人(女性)ではない。

さらに言うなれば、今まで恋に落ちそうになったり、今の彼女であるアスカと揉めたり……。





ほんとに心の奥底から変な違和感があった。


そのドキドキ感は、大切にしたいというか、特別な……。逆に言えばアスカのことを考えると、ただの危機感でしかなかった。


もし、どこかでアスカと会ったらという…。




でも………。







男って、このようなところが卑怯で、逆にうまく事を済ませてしまえば、絶好のチャンスでもあると思ってしまう。


誰にも見られず、涼子とラブホに入ってしまえれば… とか。


すぐ手の届く所に、ラブホ街。




居酒屋でも、個室に入って2人だけの空間になってしまえれば… とか。


もっと述べれば、その居酒屋で涼子を酔わせて… とか。


すぐ手の届く所に、2人だけになれる空間。


ほんとにすぐそこにラブホ街と居酒屋街。




そんなことを考えて、鼻の下を伸ばしながら涼子の横を歩く僕。


けど僕は紳士さを満面に表す、ただの偽善者……。


はたからみれば、付き合ってソコソコの初々しいカップル同然だ。


手さえもつながず、腕も組まず。


アーケード街の、前から歩って近づいてくるコワモテのおっさんも、とっぽいアンちゃんも、なぜかクールな素振りで関わらないように避けていた。




そんな感じで歩く2人。



依然会話もなく……。







涼子が開口一番、

「ねぇ?!ケイタ〜〜?どこいくぅ?」


「……。」

戸惑いつつもその言葉に返答をする僕。


「俺…。俺さぁ…。」


嬉しさとか、この後の2人の行く末、そしてアスカとの動向を脳裏に焼き付けながら、しかも、冷や汗をかきつつ。








「りょ!涼子!やっぱ俺さぁ!帰るわ!」


「……。」






僕の突然の言葉に躊躇して、黙る涼子がいる。




すると、涼子が。







「べっ!別にいーじゃーぁん!友達だしさぁ!軽く一件ぐらい付き合ってよぉ!」


戸惑いつつも、言葉を選びながらの涼子。








「あっ…。それもそぉかぁ…。ぅんっ!!!!。」


思い出したかのように、涼子の顔を見る僕。


涼子は満面の笑み。




ほんとに、ニコニコとした頰にエクボをだして笑う涼子……。








でも……。


でも……。



憎めない……。


憎むどころか、愛おしささえも感じられた。


このまま、アスカを捨てさって、涼子のところへいけたら……。





このまま、アスカと何でもなければ、2人だけの空間になりたかった。



こっ!


これだ!


これだ!


男の卑怯さ!


卑怯さというか、自分が弱っているときに、優しくしてもらった女性になびいてしまう感情はっ!!




………………。



そんな事を裏腹で考え、考えれば考えるほど、行き詰まってしまう僕。









「ねぇー?ケイタ?ねぇ〜ってばっ!?」


「…………。」



少しの時間、躊躇する俺。


思い出したかのように、


「あっ……⁈ぅん……。そーだなぁ!どこいこぉっかぁ?」


「なーんかっ!変なのっ!ケイタ……。」


「あっ⁈別に変じゃねーよぉっ!どこいこぉっかぁ?」


「この前新しくできたさぁっ!串揚げの店行ってみよぉーよぉー!」

「あっ!いーんでないっ?どこにあるのっ⁈」


「その路地を回ってすぐだったような気がするっ!」



2人手も繋がぬまま数百メートル。






路地を曲がった所。




「あれっ⁈違うのかなぁ……?」



涼子を右に、僕が見た光景は、道路の左も右も、素敵なラブホ街。



「……………。」



僕は黙り込んでしまった。




と、咄嗟に涼子は俺の手を握り、


「ごっ!ごめんっ!曲がるとこ間違えちゃったっ!」

と、走り出す。


僕も身を委ねるがままにラブホ街から2人立ち去った。



ラブホ街路地から数百メートル。


「ごめんねっ!!!ケイタ!曲がるところ間違えちゃったっ……。私って記憶力悪いからさぁ……。」


と、ハニカム涼子。


「えっ⁈………。あっ!別に気にしてねーからさぁ……。」




2人息は荒れに荒れている。





ハァーツ!


ハァーツ!


ハァーツ!



息が整った頃。



膝に両腕をつく2人。





ほんとに2人全力疾走だった。











僕が顔を上げるとそこは……。











2人して、顔を見合わせた。






一瞬時が止まったようだった。






「ねぇ〜〜!?ケイタ!?これって?!」


「えっ?」


僕が顔を上げたその先の情景は、まさしく、またラブホだった。


「りょ!涼子!俺わざとここに来たわけじゃねーかんなぁ!!!」



「わっ!わっ!私だってわかってるよ!」


焦る涼子の顔は真っ赤、そして僕は平然を保とうと必死。









しばらく会話もなかったっけ……。


数分だったか……。



その気まずい空気に水を差したいわけではなかったけど。



僕の口からスッとこんな言葉が出た。





「なぁー……。変に居酒屋で金使うより、ここで美味い酒とツマミと、カラオケと……。」

と、僕が全て会話を終わる前だった……。


「ねぇー⁉︎ケイタっ⁉︎それ以上言わないでっ!!!」


「はぁっ!?」



と、涼子は僕の手をギュッと握り、


「今日はさぁっ!いいっかぁ!?ここでたのしんじゃおぉっかぁー!?」



僕をラブホ街の方に、誘い込んだ。

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猫と蝶と僕⑨

涼子が帰った、アスカと僕二人のアパート。


僕も色んな場面とか会話を予想してたけど…。




「涼子さんって、いい人だねぇ…。ケイタまさか、涼子さんが元カノとかじゃないよね?」

アスカは少し嫌みのように僕に話しかけてきた。

「いやいや!元カノじゃないよー!ニ、三ヶ月前かなぁー、車ぶつけられてよ…。それからかなぁ、付き合いは。」

「ふーん…。何それ?付き合いって?連絡取ってるの?てかさぁー、前にカモミールで会ったよねぇ?エントランスのとこで…。」

「あー。飯食いに行ったときねぇ。てかっ、連絡なんて取ってないよ。」

何気無く返した会話だったが…。


「ねぇー!よくそんな簡単な言葉で、飯食いに行ったときね。とか言えるよね…。」

「はぁ…?だから、今はなんでもないって!!ただ、飯食いに行っただけじゃん。しかも、あの時は、アスカと、付き合ってなかったし…。てか、なんでそんなに突っかかってくんだって?」

別に僕も怒るわけではなかったけど、アスカの口調に腹がたって、少し強い言動になってしまった。

「どぉせ、私が居ないところで、涼子さんとLINEとかしてるんでしょ?」

「だから!してないって!しかも、アスカと付き合ってから、連絡先とか消したし!別によくない?あの手紙のわだかまりが、解けたんだから…。」

「てか、付き合う前に私と連絡してるときに、二人でデートしてたでしょ?私はなんだったの?キープ?だったの?」

アスカの口調が激しくなるに連れて、僕も更に腹がたって行く。

「だからっ!キープでも何でもないし、あの時はあの時!ふつーに、飯食いだけだったから!」

「もぉー、いーよぉ!ちょっと頭冷やしてくる!」

アスカは、バックを持ち思いっきりドアを開けて出て行った。


結局、アスカはアパートから出て行ったまま、夜になっても帰ってこなかった。

頭を冷やしつつ、夕暮れに染まる西の空を眺めていた。

なぜ、あの時アスカに対して、もう少し冷静になれなかったのか…。

しかも、スマホのLINEさえも確認しなかった。


ベランダでタバコを吸おうと、ポケットからグチャグチャになった、セブンスターのソフトを取り出す。

小さく舌打ちしながら、最後の一本に火をつける。

タバコが短くなるにつれて、西日が少しずつ弱まる。

いつもなら、好きな夕暮れ…。
今日だけは、みる気にならず、タバコをもみ消し、ベランダの鍵を閉め、カーテンさえも閉めた。

右腕に時計を付け、財布とライター、携帯、必要最低限の荷物で、街に繰り出した。

以前住んでたアパートより、今住んでるアパートの方が繁華街には近かった。

歩いて15分ほど…。

繁華街のイルミネーションが、当ても無く歩く僕を、繁華街に導いているようだ。


繁華街のアーケード内。


「只今の時間、入店いただくと生ビール一杯半額でーす!」

呼び込みのアルバイトの声。

聞く気にもならず、静かな通りを歩きたかった。

アーケード内に入って、すぐ右手に折れると、少し静まりかえった居酒屋街。

引っ越してから、行きつけになった古ぼけた焼き鳥屋に入った。

いらっしゃいませの声も無く、カウンターに座る僕を見て、大将は黙って生ビールを、ドンッと置く。

ジョッキは凍っていて、冷たかった。

まるで、僕とアスカの関係のように…。


僕も大将と目を合わせることなく、ジョッキ半分ほど一気飲み…。

通しと焼き鳥数本、生二杯、そして芋焼酎水割り。

これがいつもの僕のコース。
何も言わなくても、大将は分かってるのだ。
飲み物がなくなった頃、みはからって、黙ってドンッ!

そんなやり取りが小一時間。


僕は人差し指で、大将に向かって、バツを作る。

2000円を差し出し、店を後にした。無口な大将だが、そこに大将なりの気遣いがあるのだ。

結局、大将とは何も話さなかった。


少しほろ酔い気分で、少し薄暗いスナック街を一人歩く。

アーケードからは、少し離れているせいもあってか、客足も少なく、静まりかえる通り。

一人だけ、おじさんとすれ違った。


歩いて数百メートルだろうか…。


あるスナックの前で立ち止まる。
一度も入ったことが無い店だったが、看板の名前と色が気になった。


(スナック、butterfly)

しかも青い看板。

蝶かぁ…。



ぼぉーとして看板を見つめていると、木製の味気あるドアが静かに開いた。



全てドアが開く前に僕は呆然とした。






「りょ、涼子⁉︎」

「えっ⁇ケイタ⁈」


青と黒を基調にした、無数のラインストーンが散りばめられたロングドレス姿の涼子。


「少し飲んでくぅ?」

「あっ。ぅん…。お客さんは?」

「ゼロ、ゼロ…。ママも諦めて、帰っちゃったから、私一人で切盛り。」

と、苦笑いの涼子。

「水割りでいーんだよね?」

「ぅん…。」


製氷機からアイス、冷蔵庫からミネラルを出しながら、涼子はカウンターに座る僕を気にしている。



「はいっ!どぉぞぉ。」

コースターの上に、グラスを置くと、涼子は店の看板を消し、ドアに鍵をかけた。

すると、カウンターの僕の横に座り、
「一緒に貰っていい?」

「ぅん…。いいけど、俺長居はしないよ…。」


グラスとグラスを軽く重ね合わせ、静かなスナック内に、小さく響く。


何も話さない僕に対して合わせてくれていたのだろうか、涼子もほとんど話さない。


1時間ほどだったか…。

「ねぇ〜?ケイタ、この後何か用事あるの?」


「ん?特には何もないけど…。どぉせ今日はアパートに帰っても一人だし!」


「ふーん…。この後さぁ〜、どっか飲み行かない?」


「そだねぇ〜?久しぶりだし、行こっかぁ?」


涼子はドレスから私服に着替え、奥から出てきた。


「ごめん…待たせちゃって。じゃぁ、行こっかぁ?」

ドレスと私服では、また違う雰囲気の涼子に、異性に対しての感情を覚えてしまった。

涼子と僕は、スナックを後にして、夜の繁華街に消えて行った。

ご案内m(._.)m

いつもありがうございます。

ブログのご案内なんです。

yousukeita0410's blog
→フィクション恋愛携帯小説
「猫と蝶と僕」

yousukeita0410のブログ
→ノンフィクション恋愛携帯小説
「金木犀」


ブログ内で見づらい、発見しづらいと思います。申し訳ありません。
ここで紹介させていただきますm(._.)m

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猫と蝶と僕⑧


アズサさんは、よく話す人だ。

アスカの会話が終わらない内に、会話に入ってくる。

悪く言えば、人の話を聞かないという様な。

女の子の会話に入れず、キッチンに追いやられ、タバコをふかすこと数回。
アズサさんは、喋るだけ喋って帰って行った。



「なぁー?アスカ?俺、アズサさん苦手だわぁ…。」

と苦い笑の僕。

「えっ⁈何でぇ?」

と、アスカも苦笑い。

「だって、お喋り屋でしょ?」

「あーねぇ!何か、私は慣れちゃった。」

「なぁー?こんな事言ったら、ごめんなぁだけど、今日何でアズサさん来たの?」

「んー…。何でだろぉ…。彼氏見たいって前から言ってたし、結構ケイタのこととか、嫌がらせの手紙のこととかも相談してたからさぁ。」

「へぇー。そぉだったんだぁ…。そぉ言えば、手紙も来なくなって、安心したなぁ!まぁ、引越したんだも来るわけねーかぁ。」

「来るわけないでしょー?逆に、来たらストーカーレベルじゃない?」

「まぁー、確かに!引越しして良かったわねぇ!」



そんな平穏で、幸せな生活が続くと思ってた。

僕もアスカも。


夏の暑さも落ち着き、日が暮れると、すっかり秋の夜に変わっていた。

僕は、この季節の夜が好きだ。

日中、日差しで温められた空気が、徐々に冷やされて、金木犀の香りが辺り一面に満たされる。

ベランダに出て、タバコをふかしながら、遠くに点滅している高架線の光を見つめる。

消えてはつき、消えてはつき。

あれ程、小さい光なのに上空を飛ぶ飛行機にとっては、重要な目印の一つ。

僕にとっては、ぼっーとするための一つの材料。

この周辺の市民にとっては、電気を運んでくれる鉄塔。

用途は考え方次第で、いくらでもあるのだろう。

まぁ、さておき。


ある日曜日の朝タバコを吸おうとすると、昨夜切らしていたことに気づいた。

「アスカー!ちょっとタバコ買ってくるよ。車のキーとってぇ!」

「ねぇー、歩いて行きなよ!近いんだし、運動も兼ねてさぁ!」

「あーい!わかりましたよー!」

少しふてくされて、歩く近所。


左側の歩道を歩いていると、クラクションが二回。

何事だと振り返る。


一瞬時が止まった。


「ケイタ!久しぶりだね!」

「りょうこぉ?!」

「どこか行くの?」

「いや!すぐそこのコンビニまでタバコ買い。」

なぜか、すっとそんな言葉が出た。

「乗ってく?私もコンビニに用があるからさぁ。」

「いや!すぐそこだし。」

「いーから、早く乗って!」


二人の車内。
何を話していいのか分からなかった。
手紙の件を怒るべきか、音信不通なことを言い訳しようか、彼女が出来たことを話すべきか…。

「最近どぉ?彼女でもできた?」

普通に話しかける涼子。

僕は、あんな手紙を出していて、よくそんな事、簡単に言えるよなって正直腹がたった。

「なぁー!涼子!あんな手紙出しておいて、よくそんな事言えるよなぁ?」

ほんとは、そんな強い口調で言うはずじゃなかったけど…。

すると、涼子は突然の事に驚いて、少し泣きそうになりながら、

「えっ⁈手紙?なんのこと?」

「はぁー?!俺のアパートに、嫌がらせの手紙入れていったでしょ!」

「えっ⁈わたし、わたしそんなことしてないっ!ほんとにしてない!」

「だって、涼子って手紙の下に書き添えてあったよ!」

「私、ケイタと彼女さんらしき人がスーパーで買い物してたところは、見たけど、そんなひどいこと、絶対しないからっ!」

「えっ‼︎」

一瞬何が何なのか分からなくなった。

涼子は今にも泣き出しそうだ。

「ご、ごめん…。ほんとに涼子じゃないんだぁ…。まぢでごめん…。」

「ほんとだよ…。信じて…。私は、今ケイタが、その彼女さんとうまくいってるんなら、それでいーからさぁ…。私も今彼氏できたから…。一応幸せだよ…。」


数分車内は静まり返った。

その涼子との一連のやりとりの中で、ほんとに涼子は白だと思った。

「涼子ほんとにごめん…。でも、涼子からの手紙を書いて差し出してきたの誰なんだろぉ…。」

「誰か、ケイタの知り合いかなんかで涼子って名前の子いないの?」

「いや、いないなぁ…。だって、俺会社の転勤でこっちに来たから、友達って言う友達なんて少ないし。会社でも、涼子って名前はいないし。」

「その彼女さんの知り合いとかは?」

「わかんなぃ…。その手紙見てみる?俺のアパートにあるけど…。」

「ぅん。少しだけ時間あるから。」

「アパートに彼女いるけど、紹介するよ。」

涼子の車で、僕のアパートに。

アスカには今から友達を連れてくって、あらかじめLINEを入れておいた。


「ただいまぁー。」
「すいません。突然お邪魔しちゃって。」

「いやいやぁー。汚なくてすみません。」

「アスカ〜…あの前に届いた手紙、まだ持ってる?」

「えっ⁈あるにはあるけど、なんでぇ?」

「実は、この人が涼子。でも、勘違いしないでよ!あの、手紙出したのは涼子じゃないって!」


明らかにアスカは焦りを隠せなかった様子だったけど、手紙をテーブルの上に差し出した。

「私、こんなに字綺麗じゃないよ!しかも、私彼氏いるから、こんな手紙間違っても書かないしっ!」
と、涼子。

その涼子の様子を見て、アスカも納得したようだった。

「お時間ありましたら、お茶でも飲んで行きます?」

と、アスカは涼子に軽く話しかける。

「あっ!気を使わないで下さい!」

「外暑いですし、冷たいお茶でも飲んでいって下さい。」

と、穏やかな表情のアスカ。



とりあえず、この三人の勘違いは払拭された。

アスカも涼子の事は気に入った様子だった。



ここから、真犯人の特定までは、以外なところで明らかになっていく。

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猫と蝶と僕⑦

うだるような暑さの毎日。
その年の夏は、例年より暑い夏だった。

アスカと付き合い出して、一ヶ月目の記念日。

アスカは記念日を特に気にする女の子だった。

「ねぇ?ケイター。一ヶ月記念日はどっかに連れてってよぉ!」

「うんっ!横浜あたりまでドライブでもしてこよっかぁ?」

「うん!うんっ!行きたいっ!」

毎日の様に、アパートに来てくれるアスカ。そして、僕のアパートには、三年ぶりに幸せとか笑顔、笑い声、時に喧嘩も戻ってきた。

喧嘩と言っても、別れとかには発展しない、二人よく話し合って、お互い分かり合えるまでの完結型の喧嘩だったから、尚更二人の絆は深まっていった。


そんな幸せな日々が続いていたせいもあってか、先日届いていた、涼子からの嫌がらせともとれる、手紙の件も忘れかけていた。


週も半ば、水曜日、アパートに帰ると、アパートの鍵があいていた。

「ただいまぁー!アスカ帰ってたんだぁ?」

アスカの靴があるのに、アスカからは返事がない。

アパートのベランダの窓があいていて、夕方の風がカーテンを引き連れて、室内に心地良く入り込む。

「アスカぁー?帰ってるんでしょー?どこぉ?」


僕が、リビングから六畳の和室に入ろうとすると、アスカが一枚の手紙を両手に持ち、下を向いて座り込んでいる。

「アスカ?どぉした?」

しばらく、黙り込み。

「これっ!」


アスカは紛れもなく涙目だ。


僕はアスカからの手紙を受け取り、内容を確認。

(ケイタと住まれてるあなたへ。
私はケイタとあなたが毎日、幸せそうに買い物とか、ご飯食べとかに出かけている姿が、すごくうらやましいです。私は、今でもケイタのことが忘れられなくて、毎日辛いです。
別れていただけませんか?そうでなければ、私は生きてる意味がない気がします。あと、ケイタにも…また会ってくれるって言ったよね…。)


僕は、これ以上に冷や汗とともに恐さを感じた事は今までなかった。

警察にも届けようと思うくらい。

手紙の最後の文脈からも、わかるように、今後起こり得る涼子の全ての行動に、あくまで予想だが、怖くなった。ほんとに取り越し苦労であって欲しいと。


手紙を全て読み終え、呆然と立ち尽くす僕。



「アスカ!?これって…。」

「ケイター。わかってるよ!毎日二人幸せだし、ケイタが浮気してるなんて、これっぽっちも思ってもないし…。」

やっとの想いで、ねじり出したアスカの言葉。

「実はさぁ…。前にも一枚届いていたんだわぁ…でも、アスカに心配かけたく無いと思って、そっと処分したんだけど…。だってさぁ…俺だって、ここまでやると思わなかったし。」

「ケイター。ごめんね…わたしも…

実はさぁ…。

これ初めて読んだんじゃないよ…。」



「はぁっ⁈」

すると、アスカは自分のバッグから三枚の封筒を出し、細い震える手で、僕に手渡す。

「これ郵便受けに…。」

アスカは今にも泣き出しそうだ。


僕は一つずつ内容を確認、ある事に気づいた。

毎回全く同じ文章に。

「ケイタが仕事遅い時に、早くアパート着いたりしたことあったじゃん…。最初は見る気にならなかったけど、気になって、気になって…それで中開けたら…。私怖いよぉ…。」

アスカの瞳には、大粒の涙がひかった。

アスカの肩を思い切り抱きしめて、

「大丈夫!大丈夫!俺がいるからっ!」

「ぅん!それはわかってるよ…。でも恐いよ…。その女の人の顔見たわけじゃないけど…近くに居て、見られてるんじゃないかって…。やっぱり、こんな事されたら恐い…。」


そのアスカのため息混じりの、悲痛な叫びの様な言葉。

僕は数分アスカを見つめ、黙り込む…。


「分かった…アスカ。引越ししよっ!俺らの会社に通勤できる距離で、できるだけ遠くに!」

「えっ…。でも…。」

思ってもない僕の言葉に、アスカは言葉の選択に戸惑う。

「大丈夫!毎日、恐い思いさせてアスカを、このアパートに置きたくないしっ!どぉせこのアパートも、契約期間切れるし!そーだ!今から不動産屋行ってこよっ?善は急げって!」



「ぅん…。」

僕の咄嗟の行動に、アスカの涙は、いつの間にか乾いていた。



九月の頭。

相変わらず、暑い。蝉の声も更に増す。

晩秋が恋しい時期。
涼しくて、優しい風が吹く季節が、すぐそこまで来ているのに、手を伸ばしても、なかなか届かない。



新しいアパートは二週間ほどで決まり、すぐ入居可だった。2LDKで、近くに竹林があって、2階の角部屋。

風が出ている夜は、竹林の竹が揺れて、重なりあい、何とも風情な空間をかもし出す。




不思議な程に、毎週届いていた、涼子からの不気味な手紙は、引越しのまでの間、前のアパートには届かなかった。

会社までは少し遠くなったが、二人の幸せで、安心した生活を保つには最適な場所だった。


新生活も二、三週間で慣れた。
僕も万が一を考えて、今まで通っていた通勤路を、わざと外して通った。

あの不気味な手紙も届くわけもなく、アスカの恐怖心も徐々に緩和されて行った。



九月も中盤。

アスカが会社の二つ上の同僚を、アパートに連れて来て紹介してくれた。

「アスカの彼氏の、ケイタです。宜しくです!」

「早く結婚しちゃえばいーのに、アスカー!あっ!すいません!自己紹介の前に…。私、アズサって言います!宜しくねぇー!」

アズサさんは、アスカをいじりながら、僕に自己紹介した。

アスカは恥ずかしさを抑えながら、リビングまでアズサさん迎えいれた。

この時は全く気づかなかったが、この件が、更に事を悪化させて行くことを…。