恋愛携帯小説シリーズ

猫と蝶と僕⑩



涼子の勤めるスナックからほんの数百メートル。

薄暗いスナック街から、賑やかな繁華街にでる。



時間は24時を回っていた。



僕も以前、ドレス姿の夜のお店の子とアフターをした経験はあったが、今日アフターで付き合ってくれている涼子は全くの私服…。しかも、アフターではなく、ただの個人的な付き合いで夜の街をほっつき歩いている。


もっと言うなれば、全く関係のない人(女性)ではない。

さらに言うなれば、今まで恋に落ちそうになったり、今の彼女であるアスカと揉めたり……。





ほんとに心の奥底から変な違和感があった。


そのドキドキ感は、大切にしたいというか、特別な……。逆に言えばアスカのことを考えると、ただの危機感でしかなかった。


もし、どこかでアスカと会ったらという…。




でも………。







男って、このようなところが卑怯で、逆にうまく事を済ませてしまえば、絶好のチャンスでもあると思ってしまう。


誰にも見られず、涼子とラブホに入ってしまえれば… とか。


すぐ手の届く所に、ラブホ街。




居酒屋でも、個室に入って2人だけの空間になってしまえれば… とか。


もっと述べれば、その居酒屋で涼子を酔わせて… とか。


すぐ手の届く所に、2人だけになれる空間。


ほんとにすぐそこにラブホ街と居酒屋街。




そんなことを考えて、鼻の下を伸ばしながら涼子の横を歩く僕。


けど僕は紳士さを満面に表す、ただの偽善者……。


はたからみれば、付き合ってソコソコの初々しいカップル同然だ。


手さえもつながず、腕も組まず。


アーケード街の、前から歩って近づいてくるコワモテのおっさんも、とっぽいアンちゃんも、なぜかクールな素振りで関わらないように避けていた。




そんな感じで歩く2人。



依然会話もなく……。







涼子が開口一番、

「ねぇ?!ケイタ〜〜?どこいくぅ?」


「……。」

戸惑いつつもその言葉に返答をする僕。


「俺…。俺さぁ…。」


嬉しさとか、この後の2人の行く末、そしてアスカとの動向を脳裏に焼き付けながら、しかも、冷や汗をかきつつ。








「りょ!涼子!やっぱ俺さぁ!帰るわ!」


「……。」






僕の突然の言葉に躊躇して、黙る涼子がいる。




すると、涼子が。







「べっ!別にいーじゃーぁん!友達だしさぁ!軽く一件ぐらい付き合ってよぉ!」


戸惑いつつも、言葉を選びながらの涼子。








「あっ…。それもそぉかぁ…。ぅんっ!!!!。」


思い出したかのように、涼子の顔を見る僕。


涼子は満面の笑み。




ほんとに、ニコニコとした頰にエクボをだして笑う涼子……。








でも……。


でも……。



憎めない……。


憎むどころか、愛おしささえも感じられた。


このまま、アスカを捨てさって、涼子のところへいけたら……。





このまま、アスカと何でもなければ、2人だけの空間になりたかった。



こっ!


これだ!


これだ!


男の卑怯さ!


卑怯さというか、自分が弱っているときに、優しくしてもらった女性になびいてしまう感情はっ!!




………………。



そんな事を裏腹で考え、考えれば考えるほど、行き詰まってしまう僕。









「ねぇー?ケイタ?ねぇ〜ってばっ!?」


「…………。」



少しの時間、躊躇する俺。


思い出したかのように、


「あっ……⁈ぅん……。そーだなぁ!どこいこぉっかぁ?」


「なーんかっ!変なのっ!ケイタ……。」


「あっ⁈別に変じゃねーよぉっ!どこいこぉっかぁ?」


「この前新しくできたさぁっ!串揚げの店行ってみよぉーよぉー!」

「あっ!いーんでないっ?どこにあるのっ⁈」


「その路地を回ってすぐだったような気がするっ!」



2人手も繋がぬまま数百メートル。






路地を曲がった所。




「あれっ⁈違うのかなぁ……?」



涼子を右に、僕が見た光景は、道路の左も右も、素敵なラブホ街。



「……………。」



僕は黙り込んでしまった。




と、咄嗟に涼子は俺の手を握り、


「ごっ!ごめんっ!曲がるとこ間違えちゃったっ!」

と、走り出す。


僕も身を委ねるがままにラブホ街から2人立ち去った。



ラブホ街路地から数百メートル。


「ごめんねっ!!!ケイタ!曲がるところ間違えちゃったっ……。私って記憶力悪いからさぁ……。」


と、ハニカム涼子。


「えっ⁈………。あっ!別に気にしてねーからさぁ……。」




2人息は荒れに荒れている。





ハァーツ!


ハァーツ!


ハァーツ!



息が整った頃。



膝に両腕をつく2人。





ほんとに2人全力疾走だった。











僕が顔を上げるとそこは……。











2人して、顔を見合わせた。






一瞬時が止まったようだった。






「ねぇ〜〜!?ケイタ!?これって?!」


「えっ?」


僕が顔を上げたその先の情景は、まさしく、またラブホだった。


「りょ!涼子!俺わざとここに来たわけじゃねーかんなぁ!!!」



「わっ!わっ!私だってわかってるよ!」


焦る涼子の顔は真っ赤、そして僕は平然を保とうと必死。









しばらく会話もなかったっけ……。


数分だったか……。



その気まずい空気に水を差したいわけではなかったけど。



僕の口からスッとこんな言葉が出た。





「なぁー……。変に居酒屋で金使うより、ここで美味い酒とツマミと、カラオケと……。」

と、僕が全て会話を終わる前だった……。


「ねぇー⁉︎ケイタっ⁉︎それ以上言わないでっ!!!」


「はぁっ!?」



と、涼子は僕の手をギュッと握り、


「今日はさぁっ!いいっかぁ!?ここでたのしんじゃおぉっかぁー!?」



僕をラブホ街の方に、誘い込んだ。