恋愛携帯小説シリーズ
猫と蝶と僕⑧
アズサさんは、よく話す人だ。
アスカの会話が終わらない内に、会話に入ってくる。
悪く言えば、人の話を聞かないという様な。
女の子の会話に入れず、キッチンに追いやられ、タバコをふかすこと数回。
アズサさんは、喋るだけ喋って帰って行った。
「なぁー?アスカ?俺、アズサさん苦手だわぁ…。」
と苦い笑の僕。
「えっ⁈何でぇ?」
と、アスカも苦笑い。
「だって、お喋り屋でしょ?」
「あーねぇ!何か、私は慣れちゃった。」
「なぁー?こんな事言ったら、ごめんなぁだけど、今日何でアズサさん来たの?」
「んー…。何でだろぉ…。彼氏見たいって前から言ってたし、結構ケイタのこととか、嫌がらせの手紙のこととかも相談してたからさぁ。」
「へぇー。そぉだったんだぁ…。そぉ言えば、手紙も来なくなって、安心したなぁ!まぁ、引越したんだも来るわけねーかぁ。」
「来るわけないでしょー?逆に、来たらストーカーレベルじゃない?」
「まぁー、確かに!引越しして良かったわねぇ!」
そんな平穏で、幸せな生活が続くと思ってた。
僕もアスカも。
夏の暑さも落ち着き、日が暮れると、すっかり秋の夜に変わっていた。
僕は、この季節の夜が好きだ。
日中、日差しで温められた空気が、徐々に冷やされて、金木犀の香りが辺り一面に満たされる。
ベランダに出て、タバコをふかしながら、遠くに点滅している高架線の光を見つめる。
消えてはつき、消えてはつき。
あれ程、小さい光なのに上空を飛ぶ飛行機にとっては、重要な目印の一つ。
僕にとっては、ぼっーとするための一つの材料。
この周辺の市民にとっては、電気を運んでくれる鉄塔。
用途は考え方次第で、いくらでもあるのだろう。
まぁ、さておき。
ある日曜日の朝タバコを吸おうとすると、昨夜切らしていたことに気づいた。
「アスカー!ちょっとタバコ買ってくるよ。車のキーとってぇ!」
「ねぇー、歩いて行きなよ!近いんだし、運動も兼ねてさぁ!」
「あーい!わかりましたよー!」
少しふてくされて、歩く近所。
左側の歩道を歩いていると、クラクションが二回。
何事だと振り返る。
一瞬時が止まった。
「ケイタ!久しぶりだね!」
「りょうこぉ?!」
「どこか行くの?」
「いや!すぐそこのコンビニまでタバコ買い。」
なぜか、すっとそんな言葉が出た。
「乗ってく?私もコンビニに用があるからさぁ。」
「いや!すぐそこだし。」
「いーから、早く乗って!」
二人の車内。
何を話していいのか分からなかった。
手紙の件を怒るべきか、音信不通なことを言い訳しようか、彼女が出来たことを話すべきか…。
「最近どぉ?彼女でもできた?」
普通に話しかける涼子。
僕は、あんな手紙を出していて、よくそんな事、簡単に言えるよなって正直腹がたった。
「なぁー!涼子!あんな手紙出しておいて、よくそんな事言えるよなぁ?」
ほんとは、そんな強い口調で言うはずじゃなかったけど…。
すると、涼子は突然の事に驚いて、少し泣きそうになりながら、
「えっ⁈手紙?なんのこと?」
「はぁー?!俺のアパートに、嫌がらせの手紙入れていったでしょ!」
「えっ⁈わたし、わたしそんなことしてないっ!ほんとにしてない!」
「だって、涼子って手紙の下に書き添えてあったよ!」
「私、ケイタと彼女さんらしき人がスーパーで買い物してたところは、見たけど、そんなひどいこと、絶対しないからっ!」
「えっ‼︎」
一瞬何が何なのか分からなくなった。
涼子は今にも泣き出しそうだ。
「ご、ごめん…。ほんとに涼子じゃないんだぁ…。まぢでごめん…。」
「ほんとだよ…。信じて…。私は、今ケイタが、その彼女さんとうまくいってるんなら、それでいーからさぁ…。私も今彼氏できたから…。一応幸せだよ…。」
数分車内は静まり返った。
その涼子との一連のやりとりの中で、ほんとに涼子は白だと思った。
「涼子ほんとにごめん…。でも、涼子からの手紙を書いて差し出してきたの誰なんだろぉ…。」
「誰か、ケイタの知り合いかなんかで涼子って名前の子いないの?」
「いや、いないなぁ…。だって、俺会社の転勤でこっちに来たから、友達って言う友達なんて少ないし。会社でも、涼子って名前はいないし。」
「その彼女さんの知り合いとかは?」
「わかんなぃ…。その手紙見てみる?俺のアパートにあるけど…。」
「ぅん。少しだけ時間あるから。」
「アパートに彼女いるけど、紹介するよ。」
涼子の車で、僕のアパートに。
アスカには今から友達を連れてくって、あらかじめLINEを入れておいた。
「ただいまぁー。」
「すいません。突然お邪魔しちゃって。」
「いやいやぁー。汚なくてすみません。」
「アスカ〜…あの前に届いた手紙、まだ持ってる?」
「えっ⁈あるにはあるけど、なんでぇ?」
「実は、この人が涼子。でも、勘違いしないでよ!あの、手紙出したのは涼子じゃないって!」
明らかにアスカは焦りを隠せなかった様子だったけど、手紙をテーブルの上に差し出した。
「私、こんなに字綺麗じゃないよ!しかも、私彼氏いるから、こんな手紙間違っても書かないしっ!」
と、涼子。
その涼子の様子を見て、アスカも納得したようだった。
「お時間ありましたら、お茶でも飲んで行きます?」
と、アスカは涼子に軽く話しかける。
「あっ!気を使わないで下さい!」
「外暑いですし、冷たいお茶でも飲んでいって下さい。」
と、穏やかな表情のアスカ。
とりあえず、この三人の勘違いは払拭された。
アスカも涼子の事は気に入った様子だった。
ここから、真犯人の特定までは、以外なところで明らかになっていく。