恋愛携帯小説シリーズ

猫と蝶と僕


STORY1  


君は猫のようだ。

ほんとに気ままで、勝手で。

どこに行くのにも、僕には告げず、突然居なくなってしまう。

けど、君は自分が何かを求めている時、僕を頼る。
ここぞと、言わんばかりに…。

僕の肩に頭を寄せる君。

それが愛おしい。

泣きたい時に泣いて、いつの間にか、僕に寄り添ってくる。



そして…。


あなたは、蝶のようだ。

綺麗で、振舞いも上品で。

僕の肩に止まって、羽を休める。

けど、僕が動こうとすると、手を伸ばしてもスッと空に飛び立つ。

そして、あなたは、あまり話さない。
けど、話さなくても互いに通じ合っている。

それが、僕の癒しでもある。



今、君とあなたは猫と蝶に類似している。

しかも、同じ僕の庭で。




庭の木製のベンチにジッと座る君。

庭に咲くタンポポに羽を休めているあなた。

君とあなたは、僕の手の届くすぐそこにいる。





ある夏の暑い日。


コンビニで冷たいコーヒーを買う。

缶コーヒーの側面には、暑さと合間って、無数の水滴が現れる。


手から滑り落ちそうな、缶コーヒーのタブを開ける。

プシュッ!



そのままコンビニの喫煙所で煙草を貪る。


ドンっ!


「あっ!すいません…。」


黒のタイトなスーツパンツを履いて、上は清楚な白のシャツ。

黒のショルダーバッグを持った女性。

バッグの持ち替えの拍子に、僕の持っていた缶コーヒーにバッグがあたった。


カラン!カラン!

缶コーヒーが僕のスーツに飛び散り、転がった。


「あっ!ほんと、申し訳ありません…。スーツ!!」

その女性は、慌ててハンカチを出し、僕に差し出す。

「これ使って下さいっ!なんて、謝ったらいーか…。クリーニング代だけでも…。」

すかさず、バックから財布を探す。


僕も慌てて、煙草を吸い殻入れにもみ消し、スーツの状態を確認する。

「やっべ!あっ!でも大丈夫ですよ!気にしないで下さいっ!ほんと、大丈夫ですから…。」

「でも…でも、そんなわけにはいかないです…。クリーニング!!これ、私の名刺です。番号は私のものなので、クリーニング代分かったら、お支払します!」

「そんな…。大したことじゃないのに…。」


その女性は、コンビニに用があったのにも関わらず、コンビニには入らず、車にさっそうと乗り込み、走り去った。


僕は仕事上、スーツを着ることが多かったから、替えのスーツは幾らでもあった。

たまたま車にスペアのスーツパンツがあったから、それに着替えた。


あれから何日経ったか…。



何気無く、仕事をやり繰りし、忙しく見せかけた毎日を過ごしていた。

僕の仕事は、営業。

営業なんて、だいたいは車の中。

お得意先に出向いた時にだけ、深々と頭を下げ、心の中にある本心とは裏腹な行動の毎日。

だから、忙しく見せかけた仕事なのだ。

正直、仕事なんて、飲む為に使う金の製造ぐらいにしか思っていなかった。

僕の近年は、特別な女性の存在も薄れていたし。

仕事=遊ぶための金作りだった。




先日のコンビニの女性とか、クリーニングの事も忘れていた。

コンビニでタバコを買おうと、財布を出した時、財布の裏ポケットから一枚の名刺がこぼれた。


「あっ…。そぉーいえば…。」

思い出したかのように、車に戻り、名刺を再確認し、何気無く番号を登録した。


最近の携帯、いや、スマートフォンという奇跡の機械。番号を登録すると、すぐにLINEが登録された。

何かに、導かれているようだ。僕の行動は。







同じく、夏の暑い日。

会社の営業車で市内。

信号待ち。


ガコッ!!!


後ろから車をぶつけられた。


「おい!おい!営業車で事故かよ!参ったなぁ…。」

と、めんどくさそうな表情で車外に出ると。

「ほんと、すみません。ちょっとよそ見してて。ほんとにごめんなさい。」


あなたの顔を見て、俺はハッとした。


ハッとした理由は特別な感情ではなかったが、あなたは本当に顔立ちが素敵な女性だった。

こんな女性に車をぶつけてもらえるなら、何度でもぶつけて下さいってまで思えるような。


そんな下心の様な感情を抑え、

「とりあえず、警察呼びましょっかぁー!」

「ほんと、すみません。私、どうしたらいいか…。事故初めてで!」

「大丈夫ですよっ!とりあえず、落ち着いて!怪我とかは?」

「私は大丈夫です…。でもあなたは大丈夫ですか?」


ほんの数分で警察が到着。

あなたは、気が動転していて、会話になっていなかった。

事故処理後。

「えーと!ここからは、保険屋さんどうしの話なんで、お互いあまり関わりを持たないように!では、今後も気をつけて運転して下さい!」

警察は早々と走り去った。


あなたは、僕に近寄り、

「あとで、謝りに行きたいので、この番号登録してもらってもいいですか?」

「いや、いや!謝りなんて、大丈夫です!」

「でも…。でも、とりあえず登録して下さい。では…。すみません。ご迷惑をおかけしました。」


ここでも、何かに導かれて、あなたの番号もとりあえず登録した。



なぜか僕の会社は8月の暑い時期に、繁忙期やってくる。

お得意様が一つ二つと徐々に増える。

忙しく見せかけた仕事がいつの間にか、本当に忙しい仕事に変化する。

毎日のように残業、残業で携帯のLINEさえ確認しないまま、数日が過ぎた。




会社の昼休み。

喫煙所。


「この前の資料、部長に見せたかぁ?」

「あっ!はいっ!あの後、すぐ確認してもらい、ハンコをいただきました。」


ワイシャツのポケットからタバコを出して、火をつける。




何気なく携帯を見る。

LINEに2と表示。



(この前は、すみませんでした。クリーニング代分かりましたか?)


もう、一件を開けてみる。


あなた
「今度の土曜日の夜、空いてますか?」


よりによって、同じタイミング、同じ時間。

僕→君
(クリーニング代は気にしないで下さい。ほんとに大丈夫ですから!)

僕→あなた
「今度の土曜は、何も予定は無いですよ。」


LINEで二人の女性を相手にするのは初めてだった。

正直、彼女居ない期間3年の僕にとっては、絶好の機会、そしてチャンスなのかとも思えた。


(今度の金曜、夜空いてますか?)
(いや、特に何も無いですよ!)

あなた
「じゃぁー、新しく出来たレストラン、カモミールに行きませんか?」
「あーっ!いいですね。何時にしますか?」
あなた
「7時とかどぉですか?予約しますので。」
「わかりました。7時にカモミールの駐車場で。」



(金曜、新しくできた、居酒屋行きませんか?鳥洋って言う、焼き鳥屋さんなんですが。)
(あー!いーですね。行ってみたいと思ったんです。)
(何時がいいですか?)
(7時とかであれば。)
(分かりました。7時にお店で。)



君は、居酒屋を選択。しかも、焼き鳥屋。

あなたは、お洒落なレストランを選択。しかも、予約制の。

この時点では、あまり気にしていなかったが、お互い性格が出ている。



何も変わらない会社生活。一週間なんて、早いものだ。

繁忙期も終わりかけ、またいつもの、忙しく見せかけた仕事の毎日が戻ってきていた。

けど…。

ガキの頃の一週間、夏休みなんて、相当長かった気がするのに。

会社に入って、大人になって。

一日の早さには驚かされる。


そんなこんなで、金曜はすぐ訪れ
た。