恋愛携帯小説シリーズ

猫と蝶と僕

STORY②


「今日残業できるかぁ?」

「いや!すみません。今日は定時で上がらせて下さい。」

「なんだぁ?彼女でもできたかぁ?」

「いや!そんなんじゃないですよ!」



夕方6時半、日が傾きかけて、西日が眩しかった。


「あっ‼︎着替え持ってくればよかったかなぁ…。まぁー、スーツでもいーかぁ。」

と、独り言を言う車内。


あのコンビニで会って以来の、彼女との再開。

正直、緊張していた。

10分前に、焼き鳥屋の駐車場に着いた。

車が数台止まっていたが、彼女の車をボンヤリとしか覚えていなかったから、LINEで連絡。


僕→君
(今着いたのですが…もぉ着いてますかぁ?)

君→僕
(一番端っこの白の軽です。)


LINEを数件やり取りし、駐車場で落ち合った。

「なんか、すみません。突然、お誘いしちゃって。」

「いやぁー!そんなことないですよー!とりあえず、中入りましょっか?」

「はいっ!」

第一印象というか、この前、コンビニで会った時とは、違う感情を覚えた。

彼女は私服と、スーツとでは全く違う装い。

コンビニの前で会った時は、不意打ちでの出会いだったから、特に特別な感情を持たなかったが、二人で、しかもプライベートで会う今回に限っては、全く違う感情を覚えた。


「いらっしゃいませー!」

スタッフの甲高い声が店内にこだまする。

「二名様でよろしかったでしょーか?」

「はいっ!」

「では、奥のテーブルどぉぞ!」


彼女の前を歩く僕。

「初めて入りましたよー!結構素敵なお店ですね?」

「ですよねー!私は二回目なんですけど、一回目来たときに、また来たいと思ってぇ!」


テーブルに二人着席。

「何たべましょっかぁ?」
と、君。

「あれっ⁈今日は、アルコールは飲まないんですか?」
と、僕。

「明日、土曜で休みですし、飲んじゃいましょっか?」
と、笑う君。

「そぉですね!飲んじゃいますかぁー!」

「名前なんて読んだらいーですか?」
と、君。

「ケイタって読んでくださいっ!」

「じゃぁー私は、アスカって読んで下さい。」


飲んでる内に、アスカと僕が同級生だということが判明した。


アスカは、高校野球が好きで、よくプロ野球の観戦にも行くようだった。

「なんか、おかしーよね?女の子なのに、野球が好きとか…。」

口に手をあてて、恥ずかしそうに笑うアスカ。

「いやぁー!そんなことないんじゃん!俺も、高校野球は好きで、去年の夏の甲子園は、甲子園球場まで行ってきたよー!」

「えーっ⁈いーな、いーなぁー!アスカも行きたーい!」

「来年でも行こーかぁー!高速バスで行くから、楽だし」

「えーっ⁈本当〜⁈絶対だよー!絶対!」

と、アスカはテンションが上がり過ぎて、自分の感情をコントロールできていないよーだった。

「あっ⁈ごめんなさい!何か、テンション上がっちゃって…。私、私突然テンション上がる時あるから、うるさい時は言ってねぇ…。」

「そんなことないよー!俺もテンション高い方が、賑やかで好きだしっ!」


いつの間にか、お互い敬語もなくなり、今日プライベートで初めて会ったようには思えなかった。

会話と時間が二人の関係を徐々に近づけさせた。

お互い、相手の事をさらに知りたくなってく。

これって、恋なのか…。


楽しい時間なんて、すぐすぎるもの。

居酒屋には、三時間ぐらい居たか。


「今日はありがとねっ。また誘ってもいい?」

「いやいや!こちらこそありがとっ!またどっかに行こーよ!」

「じゃー!今度は新しくできた、レストラン、カモミールに行こっ?」
と、アスカ。


僕は、ハッとした。

明日は、カモミールだった。

戸惑う僕に、アスカは不思議そぉな顔で言う。

カモミールは嫌なの?」

「あっ!違う違う!カモミール行ってみたいと思ってたんだぁ!」

「よかったぁー!あの店開店したばっかりって言ってたし、オシャレだって聞いたからさぁ。」



そうして、僕とアスカは居酒屋をあとにした。

「またねー!LINE送るからー!」



アパートに帰って一人。


不思議な感情だ。


なぜか、さっき別れたばっかりなのに、またすぐ会いたくなる。

明日のカモミールの件とか、忘れそうだった。
というか、別に行かなくてもいいのではないかって思うぐらい。

シャワーを浴びて、床につく。

アスカとの会話、そしてアスカの笑った顔。

全てが脳裏に焼き付いている。

まさしくアスカに恋をしてしまった。



土曜の朝。


柔らかな日差しがカーテンからこぼれる。

何気無く、テレビをつけると、今日の夜は快晴で、何とか流星群が見れるってアナウンサーが言ってる。

ふーん…。

何気無く聞き流した。

アスカと一緒に見れたらなぁ…。



LINEを確認する。

アスカ→僕
(昨日はありがとねっ!すっごく楽しかった。今度はどこに行く?)


僕→アスカ
(俺も楽しかったよー!今度さぁー、那須辺りに日帰りでドライブ行かない?)

アスカ→僕
(えー⁈行きたい!行きたい!)

僕→アスカ
(じゃー!来週あたりどぉ?)


ピーンポーン!

玄関ベルがなる。

宅急便だった…。

通販で頼んだ、レコードが届いた。

僕はなぜか、好きな人とか気になる人ができると、音楽と結びつけてしまう。

結局、この曲は、この人との思い出の曲というように。


その日は、夕方までDJを回し続けた。

夕方六時。

(あっ‼︎もぉこんな時間!やっべぇー!カモミール!)

僕は急いで、身支度をして、カモミールに向かった。


アスカと連絡を取り出してから、あなたにはほとんど連絡もとっていなかったから、正直カモミールに、あなたが来るのか不安だった。

僕→あなた
(お疲れ様です!今カモミールに着きました。)

あなた→僕
(すみません。五分ほど遅れます。着いたらエントランスで待ち合わせましょう?)

僕→あなた
(了解しました。)



エントランス。

「ご予約のお客様でしょーか?」

「はい!七時に二人です。まだ連れが来ていないので、ここで待たせて下さい。」


五分ほど経った。


エントランスの自動ドアが開く。

「すみません。遅れちゃって。渋滞に巻き込まれて…。じゃぁ座りましょっか?」

あなたは、夕方から降っていた雨のせいで髪が濡れていて、ひどく色っぽかった。

「雨ひどくないですか?風邪ひかないよーにして下さいね。」
と、僕はハンカチを差し出した。


「あっ‼︎ありがとう。そんなことまで気を使ってもらっちゃって。優しいんですね。」

「いやいやぁ〜、そんなことないですよ!」


テーブルに着席して、ワインで乾杯。


アスカとの飲みよりも、かなり緊張感が出ていた。

「事故の後、大丈夫ですか?首とか後で痛み出るときあるみたいですから。」
と、僕。

「私は、大丈夫です。それよりあなたの方が鞭打ちとかになりませんでしたか?」
と、あなた。

「いやぁ〜俺はピンピンですよー!てか、名前なんて呼べばいーですか?」
と、僕。

「私⁈私は、涼子って読んで下さい。あなたは?」

「俺は、ケイタって読んで下さい。」

涼子は、全ての行動において、おしとやかで振る舞いが上品。

その上、顔立ちも素敵で、胸も大きかったから、緊張からか、あまり涼子の顔を見れなかった。

目線は胸元にどおしてもいってしまう…。


とりあえず、アスカの時と同様に、趣味から始まり、それなりに会話は盛り上がった。

涼子は俺より、二つ年上。

年上の女性には、もともと憧れがあったし、会話の内容にしても、引きつけらるような話ばかりだった。

料理もほとんど出て、ワインもほどほどに飲んだ頃、涼子が突然、とんでもないことを言い出す。

「ケイタさん!私と、友達からでいーのでお付き合いしてもらえませんか?」

「えっ‼︎まぢっすか?」

涼子とこの店に入った瞬間から、涼子に合わせて、会話も丁寧にしていたつもりが、一気に緊張感が爆発したような。

「あー…。俺は、問題は無いですけど、こんな俺でいーんですか?」

「はい…。お願いします。」


アスカと、涼子。

ひどいジレンマだ。

昨日、アスカと急接近。

今日、涼子と友達からの付き合いの申し込み。

そんなこと考えている内に、僕はしばらく無言になっていた。

無言になってる自分にも気づかないほど。

「私…私。ほんと変なこと言ってごめんなさいっ。私じゃだめですか?」

「いやっ!そんなことないけど。少し考えさせて下さい。」


会計を済ませ、カモミールを後にしようとした瞬間。

エントランスの自動ドアが開いた。



僕はまさかの展開に驚いた。

自動ドアの向こうに居たのは、アスカだった。

僕を挟んで、アスカと涼子。

アスカは、女友だちと来たようだった。

僕に話しかけようとしたのだろうけど、後ろに涼子が居たから、遠慮したように、しかも悲しそうに、俺とすれ違った。


アスカとすれ違った後、すぐ僕はエントランス側を振り返った。

アスカは、俺と涼子をじっと見つめて、ソッポを向いて店内に入って行った。