恋愛携帯小説シリーズ

猫と蝶と僕③

STORY③

「あれっ⁈ケイタどぉしたの?」

立ち止まり、静止する僕に、涼子は不思議そうに声をかける。

「あっ…。ぅん…。なんでもない…。」

「やっぱりこのお店素敵だったねぇ〜。また来たくなっちゃうよねー?」

「ぅん…。そーだねぇ。」

僕はアスカが去ったお店の自動ドアをしばらく見つめていた。

「なんか、ケイタ変なの〜。とりあえず、今日はありがとねぇ。またLINEするから。またねぇー。」

「ぅん。またねぇー。」

代行を呼んで、アパートに帰宅。


アスカ…。

涼子とは、今は何でもないのに…。

この感情は、まさしく恋だ。

ただ、男の卑怯な面を言うならば、涼子も少し気になってしまっていて、アスカに対しても恋をしている様な。
だから、どちらも捨てきれない。

アスカは猫の様に、無邪気さとか、可愛らしさ、そして僕に笑顔を与えてくれる。

涼子は、蝶の様に、清楚で綺麗で、僕の事を支えてくれる様な、そして憧れの年上の女性。


アパートに帰宅後、芋焼酎をロックで飲みながら、一人で泥酔してしまった。


朝、起床すると、LINEに1と表示。

僕は、おそらく涼子からだと思った。

けど、LINEを開いた瞬間、驚いた。


アスカからだった。
「今度の休みいつ?週末、那須にドライブ連れてってよー♪( ´▽`)」


正直、僕は昨日の件があったから、アスカからは、もうLINEは来ないと思っていた。

アスカは涼子と二人で居た事対して、何にも触れてこなかったから、胸を撫で下ろした。

男ってこんなに卑怯なものなのか…。

アスカは昨日の件を忘れてるわけないし…。なぜに、こんなにまで普通のLINEを送ってくるのか。

恋愛から三年遠ざかっていた僕にとっては、到底理解できなかった。


アスカに、LINEを何度も打ち直した慎重な文で返した。

「週末は基本的には休みだから、大丈夫だと思うよー( ´ ▽ ` )ノアスカは、今週末でいーのぉ?那須の、リンドウ湖ファミリー牧場とか行ってみるー?」

昨日の件を探る様にLINEをするより、いつもと変わらない会話をしたほうがいいのではと考えたからだ。

涼子とは、何でもないってことをアピールするように、一緒にいたのは、親戚の姉貴とでも、理解してくれれば幸いです。というような。

LINEを送信すると、すぐ既読になった。


数分後。

「えー‼︎行きたいっ‼︎(((o(*゚▽゚*)o)))じゃぁー!土曜の朝七時に、カワチの前のセブン集合ねぇ〜。」

随分一方的に、アスカは予定を決めてしまう。

「あいよー( ´ ▽ ` )ノ俺、クルマ出すからぁー(^-^)/アスカは、イオンにでも止めた方がいーんじゃない?」

「ぅん♪( ´▽`)そぉするぅー(*^^*)」


その後、どこにでもある日常の会話をLINEでやり取りした。


結局、アスカとの一連のやり取りの中で、涼子とバッティングした件に関しては全く触れて来なかった。


そぉ言えば…。

昨日、あれだけ僕に対して告白めいた言葉を言った涼子からは、午後になってもLINEが来ない。

この時点では、アスカとは、関係が修復できていたつもりだったし、僕からあえて涼子にLINEを送るつもりはなかった。


月曜。

月曜の朝は憂鬱だ。

出勤したら、朝礼、営業会議、パソコン整理、だいたい行動は決まっている。

しかも、週始めと、週末の時間の流れは、明らかに違う。

月曜は、何回時計を確認しても、時間が進まない。

逆に、木曜、金曜は、週末がやってくる足音が聞こえるから、時間の進み方が僕の中では、二倍近く早かった。

なおさら、繁忙期を過ぎた、我が社は、いつも通りの忙しく見せかけた仕事だったし。

アスカとは、毎日のようにLINEのやり取りを繰り返したが、涼子からは木曜になっても音沙汰無し。

当然、アスカとのやり取りが増えるに連れて、お互いを分かり合えていってたし、アスカと僕は恋人関係の様な空気にもなっていた。

週末にかけて、比例して早くなる僕の一日は、土曜をあっという間に、迎えさせた。

土曜の朝、七時。


「おまたせぇー!これっ!ケイタ飲んでー!あとサンドイッチ作ってきたからぁー!」

「おーっ!ありがとっ!俺サンドイッチ大好物なんだぁー。」

「よかったぁ〜。でも味は保証できないよー!」
と、笑うアスカ。

「だいじょぶだよぉ〜!昼が楽しみだわぁー!そんじゃぁー出発すっかぁー!」


お気に入りの洋楽をかけて出発。


出発して数分だったか…。


交差点で信号待ち。


僕は、またしても会いたくない場面に遭遇する。

対向車線に信号待ちで、止まっていた車は、涼子の車だった。

僕は眩しくもないのに、慌ててサンバイザーをおろす。

けど、もぉ既に遅かった。

涼子は気づいてしまっていた。

交差点ですれ違う時、涼子は僕の車内をじっと見つめて走り去った。


那須への日帰りドライブ。

リンドウ湖にも行ったし、トリックアートにも行った。


地元を出発してから、しばらくは涼子のことを考えていたが、時間が経つにつれて朝のバッティングの件は薄れていった。

アスカは、どこに行っても僕の前を歩く。
何か見つけると、真っ先に僕をおいて猪突猛進。

そんなケースがたくさんあったから、アスカが走れば俺も走って追いかけて…。

正直疲れたけど、そんな無邪気なところが愛くるしかった。

僕が疲れて、追いかけられない時は、僕の所に戻ってきて、僕の手を握って連れて行ってくれる。

だから、アスカとの初めて手を握った時は、変なドキドキ感があった。

走って息が上がった心臓の鼓動か、もしくは、恋をしている心臓の鼓動か…。


帰りの車中。

ポケットのスマホが鳴る。

多分、涼子だと思ったけど、運転もしていたし、アスカとも会話が盛り上がっていたから、確認すらしなかった。

「ねぇー?ケイタ疲れてる〜?」

「いやぁー。なんでぇ?」

「帰ったら、居酒屋行かない?」

「あっ!いーねぇー!焼き鳥屋?」

「よーく、お分かりぃー!」

「じゃぁー!高速で早く帰ろっかぁー!?」

「うんっ!」



結局、居酒屋に行って、飲んで食べて、那須ドライブの件で話はひっきりなしだった。


アスカがお手洗いに立った時、携帯を確認した。

僕は驚いた。



涼子から、着信三回、LINE4通。


少し怖い雰囲気もあった。

内容も同じ様なことばかり。

涼子→僕
(携帯でれないですか?)
(どこかにお出かけですか?)
(既読にもならないのですが?)
など、など…。


まさか、アスカに話すわけにも行かなかったし、イロイロ考え出すと、雰囲気を壊すと思って、居酒屋を二時間程度で後にした。


「じゃぁなぁー!アスカ!またLINEするよー!」

「うん‼︎LINE待ってるからぁ!じゃぁねぇー!」

二人とも代行に別々に乗り込み、それぞれ駐車場を出た。

駐車場を出て数分。

運転手が

「お客さんの車の、すぐ後ろに、ずっと白い軽が付いてくるんですが、お知り合いの車ですか?」

「えっ⁈俺一人のはずですが?」

と、僕は後ろを振り返る。

まさか…。




涼子の白の軽。


たまたま涼子が同じ方面に走ってるのだと思った。

いや、そうであって欲しかった。


アパートに到着。


いつの間にか、涼子の白の軽はどこかに消え去っていた。

アパートの駐車場を見渡した、その時だった。