恋愛携帯小説シリーズ
猫と蝶と僕⑤
涼子が帰った後、焼酎のボトル一本を軽々と一人であけ、床に就いた。
けど、なかなか眠りにつけない。
涼子との関係を考えれば考えるほど…。
やっと眠りについたかと思うと、浅い眠りで、アスカと涼子が脳裏に浮かんでくる。
朝7時半。
目覚ましが鳴る。
日曜日なのに目覚ましを設定していた自分が腹ただしい。
しかも、昨夜からほとんど眠れていなかったから。
目覚ましのスヌーズを解除すると、LINEに①と表示。
涼子からだった。
(昨日はほんとごめんね…。ケイタのアパート勢いで出て行ったけど、代行来るまで、だいぶかかったよf^_^;
こんな私だけど、少しずつケイタとの距離縮めて行きたいから。嫌いにならないでね。また一緒に飲んでね!)
眠さと頭がぼっ〜としていて、文章をサラッと読んで、また眠りについた。
昼。
自然に目が覚めた。
リビングでタバコに火をつけ、オレンジジュースを一気飲み。
昨日飲んだ空きカン数本とグラスをキッチンに片付けた。
思い出したかのように、涼子にLINEを返す。
(俺んちで、代行呼んでから出ればよかったのに!少し小雨降ってたでしょ?濡れなかった? 涼子の事は、嫌いになんかならないよ!また近い内飲もうなっ!)
涼子にLINEを返し、シャワーを浴びた。
濡れた髪をバスタオルで拭きながら、パンツ一丁でリビング。
不在着信だ。
項目を開くと、アスカからだった。
すぐ様、折り返し電話。
僕→もしもし、電話ごめんね。シャワー浴びてたのよ。
アスカ→もしもーし!あっ!そぉだったんだぁ!今だいじょぶ?
僕→ぅん!だいじょぶだよ!どした?
アスカ→なんでもなかったんだけど、今日暇だったらケイタんち行ってもいいー?
僕→あっ!暇っちゃ暇だけど!何時頃?
アスカ→ケイタがだいじょぶな時間だったら。
僕→あと、30分ぐらい後だったらだいじょぶだよー!
アスカ→うん!わかったぁ!
僕→ウチわかる?
アスカ→国道のセブンの近くでしょ?
僕→うん!
アスカ→近くなったら電話するね。
僕→はいはーい!
電話を切った後、落ちついて考えた。
昨日は涼子がアパートに来て、今日の昼間はアスカが来る。
取っ替え引っ換えアパートに女性を連れ込んでるような感覚を憶えた。
軽く掃除機をかけ、換気、有る程度綺麗になったアパート。
今からアスカがアパートに来ることを考え過ぎて、キッチンの洗い物は半端になっていた。
昨日は突然の涼子の訪問だったから、構える余裕はなかったけど、今日は30分の猶予が与えられたから、アスカがアパートに来て、何をするか、何を話すか、余計な事まで考えてしまった。
30分後。
アスカは予定通り僕のアパートに到着。
「お邪魔しまーす!」
「ごめんね!軽くしか掃除してないけど。」
「うーうん。気にしない気にしない!てか、私男の独り暮らしの部屋初めて入るー!」
「へぇー!そーなんだぁ!まぁ、適当に座って!なんか飲む?紅茶とかあるけど。」
「それじゃぁー、紅茶いただこうかなぁ!私も手伝うよ!」
アスカはキッチンに立って、半端になっていた洗い物をしてくれた。
二時間ぐらいだろうか、二人適当な世間話だったけど、好きな人と二人きりのアパート。程よい緊張感とか、小さいけど幸せも感じた。
珈琲を炊こうとソファから立ったときだった。
ソファにかけていたカバーがズレて、明らかに女性用とわかるリップクリームが転がり落ちた。
(まぢかっ!昨日涼子が落としていったやつじゃん…)
と、心の中で。
焦る僕を横目に、アスカは、すかさずリップクリームを拾い、僕に渡し返す。
「ケイタ!女性用のリップなんてつけるんだぁー?変わってるね!」
と、アスカは笑いながら、違う女性の影を感じたのだろうか、明らかに怪しんでる感が表情に出ている。
勿論僕はそれ以上に、何て言い訳しようかと考えているわけだから、焦りが表情に出ていただろう。
「あっ!それいつのだっけかなぁ…この前親戚の姉貴来た時忘れていったのかなぁ?」
正直、親戚に姉貴なんていないし、軽くアスカに嘘とごまかしを言ってしまった。
「ねぇ?ケイタ?ケイタって嘘つくの下手くそだね…。顔に出てるよ。」
「えっ⁉︎嘘じゃないよー!なんでぇ?」
「だってさぁ〜!あんまり言いたくないけど、キッチンのグラスとか空きカン!」
「えっ⁉︎なに?グラスがどしたぁ?昨日飲んだやつだけど…。」
「ねぇ?ここまで言って、まだごまかすの?」
「だから、なんだってぇ?」
「もぉー!ほんと男って鈍感って言うんだか、何だか…。グラスに口紅付いてたよ!さっき昨日飲んだって言ったよね?ねぇー?言ったよね?どこの女と飲んでたんだしっ?どぉせ、そのリップもその女が忘れていったやつでしょ?」
僕は何も言葉が出なかった…。
唖然として、アスカの目を見つめたけど、アスカはすぐに目をそらした。
「違うって!いや、違くないよなぁ…。」
と、酷く落ち込む僕。
「はぁ?違くないでしょ?私はなんなの?確かに、付き合ってるわけじゃないけど…どぉして、那須にドライブ行ったり、さんざんデートしておいて、期待させるだけさせて、最後に、こーいう終わり方?ケイタってほんと最悪!どぉせ、色んな女、アパートに連れ込んで、毎日楽しんでるんでしょ?」
マシンガンのような、次々とアスカから発せられる言葉は、僕の心をズタズタに切り裂いた。
何も言えず、沈黙すること10分。
「私、帰るね!もぉ会わないから!ってか、LINEも消して!ほんとに会いたくないから!」
「なぁー!アスカちょっと待ってよ!」
「いやっ!もぉケイタと話す事はないからっ!」
玄関先まで勢いよく歩くアスカ。
「ちょっと待てって!」
僕は、アスカの左腕を強く掴む。
「なにー⁈」
怒った表情でアスカは手を振りほどこうとする。
「アスカはもぉ話す事はないかもだけど、俺にはまだある!だいたい、女を毎日の様に連れ込んでなんかいないし、アスカの事はほんとに心から思ってる!昨日飲んだ人は、友達で、ほんとに何でもないから!じゃなかったら、デートにも誘わないし、那須にも行かなかったし…。アスカとの事を、本気で考えてるからっ!」
アスカはしばらく黙り込む。
「ねぇー?今からドライブ連れてってよ!」
と、静かにアスカは口を開いた。
「えっ?」
「とびっきり、夜景が綺麗な場所にドライブ連れてって!」
「あっ!ぅん…。」
「これで許したわけじゃないからねっ!!わかってんの?わかったんなら、早く車だして!!」
「ぅん…。」
それから、アスカと僕は四時間、沈黙の夜間飛行に出た。