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猫と蝶と僕⑥
アスカとの夜間飛行という名のドライブ。
アパートを出てから二時間は、会話がなかった。
というよりも、アスカは完全シカト状態。
正直、何でドライブに誘ったんだよ!って心底思った。
女心がほんとに読めない男だ、僕は…。
出発して二時間半。
「ねぇー?ナビも設定しないで、どこ向かってるの?」
アスカの初めて言葉。
「あ!ぅん…。」
久々の会話で、僕は何て返事をすればいいのか戸惑った。
「ぅん…。じゃないよー!」
「…………。」
僕は無言。
「ねぇー?もぉ怒ってないからっ!ちゃんと質問に答えてよっ!」
「織姫公園…。」
やっと出た言葉。
織姫公園は、栃木県足利市にある、日本夜景百選に選ばれる夜景スポット。
(引用)
http://yakei.jp/japan/spot.php?i=orihime
「アスカ…。俺ほんとに昨日飲んだ人とは何でもないから…。ただ相談聴いてもらっただけだから…。」
「もぉ…わかったから!その言葉信じるからねっ!」
この二人の会話が終わる頃、僕たち二人は、織姫公園の山頂に到着した。
アスカは夜景を車内から確認すると同時に、助手席のドアを思い切り開けて飛び出した。
周囲に車も止まってる様子も無く、ひと気も全くない、真っ暗闇。
僕は、突然のアスカの行動に、慌ててアスカを追いかけた。
「アスカー!真っ暗だから、危ないよー!足元気をつけないとっ!」
「えっー⁈なーにっ⁈ケイタも早く来なよ!すっごく綺麗だよ!」
やっとのことでアスカを追いかける僕。
アスカは再び僕のところまで戻ってきて、僕の手を引き、展望台まで引っ張っていく。
以前にこんな光景あったっけ…。
那須デートだったか…。
「日本の夜景百選に選ばれてるんだって!」
と、僕。
「てかさぁー!ケイタ!こんな綺麗な夜景知ってたんなら、もっと早く連れてきてよー!」
アスカは、数分間夜景を見つめて何も発しない。
「なぁー?」
と、同時に、
「ねぇー?」
と、アスカ。
「なにっ?先言っていーよぉ!」
「いやっ!そっちが先でしょ?」
「明日休み?」
と僕。
「ぅん…。ケイタわぁ?」
とアスカ。
「ぅん…。休みぃ。」
ほんとは、休みではない…。でもとっさに出た言葉。
その時点では、明日は風邪を理由に休もうと思ってた。
「ケイタって!ほんっと嘘がヘタ!」
「はぁー?」
「顔に書いてあるよ!バリバリ仕事だよって!」
「………。」
沈黙する僕。
「ほらっ!まただんまり!ケイタ得意の!」
すると、僕は夜景に向かって、
「今、仕事より大事な事がある!大切な人の隣に、できるだけ寄り添っていたい俺がここにいる!仕事一日を蹴ってでも一緒にいたい奴がここにいるーーーー!」
と、叫んだ!
アスカは突然の僕の大声に、びっくりして、僕を見つめる。
すると、アスカも夜景に向かって、
「わたしも、明日を忘れられるくらい素敵な思い出を作れる人の隣にいたいーーー!すっごくウソがヘタくそで、不器用な人だけど、すっごく優しい人ーーー!この先も一緒に、ずっとずっとずっと!一緒に居てくださいーーー!」
僕はアスカの方をあえて見ず、
「いっつも勝手で、ワガママだけど、甘え上手で、笑った顔が可愛くて、守ってあげたくて、、、」
と、僕が立て続けに叫ぶと、アスカは僕の方へ突然駆け寄って来て、僕に抱きついた。
「びっくりしたっ?!重いでしょ?」
と、アスカ。
突然の事にアスカの瞳を見つめる度、鼓動が高鳴る。
「いや!重くはないけど!」
「ちゃんと告白してよねっ!バーカっ!」
と、アスカ。
「告白したよ!」
「さっきのはさっきの!ちゃんと言って?!全く女心が全くわかんない男!」
「好きだよ…。」
と、小さな声で僕。
「えーっ⁈聞こえない!さっきの叫び声はどこ行ったの?」
「だから好きだって!」
「もっと大きな声でっ‼︎」
「だ!か!ら!好きだってっ!!ずっと一緒に居てくださいっ!!」
「やればできるじゃん!」
と、上目線でアスカ。
この日アスカと僕は正式に恋人関係になった。
ドライブの帰りは、幸せな車内だった。
これ程までに幸せな感情は、忘れかけていたから…。
なおさら…。
優しい言葉見つけてはアスカに伝え、アスカもその言葉を更に愛のこもった言葉で返してくれる。
そんな幸せな恋愛が、この先も続いてくんだと思っていた。
二人はアパートに到着し、その日アスカは僕のアパートに泊まって行った。
アスカがシャワーを浴びてる時、ふと携帯を確認する。
涼子からのLINE。
僕は、もうアスカと恋人関係だし、真剣に付き合い出したアスカに対して、後ろめたさとか、傷つけたくないという気持ち…。いや!それ以上にアスカを好きだから、もぉ涼子とは関係を持たないと決心した。
LINEをブロックした。電話番号も消した。
そんなこんなで、アスカは仕事が終わると、僕のアパートにほぼ毎日のように来てくれた。
毎日二人で料理して、一緒に食べて、飲む時は飲んで。
半同棲の様な、新婚生活の様な、幸せな毎日だった。
涼子の存在なんて、正直忘れていた。
うだるような夏の夕暮れ。
会社から帰宅して、ふとアパートのドアに着いている郵便物を確認する。
電気の領収書と、何も書いていない封筒が一枚。
鍵を開けて、室内で封筒内を確認する。
僕は正直焦った。焦りより恐さの方が大きかった。
(最近、LINEも返してくれないね。あとケイタのアパートに女の子がいるみたいだね。彼女でもできたのかな…。私は今後どうすればいーのかな…。涼子。)
と、赤い字で。
室内の暑さからくる汗ではなかった。完全に冷や汗だ。
アスカが帰ってなかったから、まだ良かった。
僕は焦りながらも、その手紙を、小さく小さくちぎり、アパートの前を流れる側溝に流した。
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猫と蝶と僕⑤
涼子が帰った後、焼酎のボトル一本を軽々と一人であけ、床に就いた。
けど、なかなか眠りにつけない。
涼子との関係を考えれば考えるほど…。
やっと眠りについたかと思うと、浅い眠りで、アスカと涼子が脳裏に浮かんでくる。
朝7時半。
目覚ましが鳴る。
日曜日なのに目覚ましを設定していた自分が腹ただしい。
しかも、昨夜からほとんど眠れていなかったから。
目覚ましのスヌーズを解除すると、LINEに①と表示。
涼子からだった。
(昨日はほんとごめんね…。ケイタのアパート勢いで出て行ったけど、代行来るまで、だいぶかかったよf^_^;
こんな私だけど、少しずつケイタとの距離縮めて行きたいから。嫌いにならないでね。また一緒に飲んでね!)
眠さと頭がぼっ〜としていて、文章をサラッと読んで、また眠りについた。
昼。
自然に目が覚めた。
リビングでタバコに火をつけ、オレンジジュースを一気飲み。
昨日飲んだ空きカン数本とグラスをキッチンに片付けた。
思い出したかのように、涼子にLINEを返す。
(俺んちで、代行呼んでから出ればよかったのに!少し小雨降ってたでしょ?濡れなかった? 涼子の事は、嫌いになんかならないよ!また近い内飲もうなっ!)
涼子にLINEを返し、シャワーを浴びた。
濡れた髪をバスタオルで拭きながら、パンツ一丁でリビング。
不在着信だ。
項目を開くと、アスカからだった。
すぐ様、折り返し電話。
僕→もしもし、電話ごめんね。シャワー浴びてたのよ。
アスカ→もしもーし!あっ!そぉだったんだぁ!今だいじょぶ?
僕→ぅん!だいじょぶだよ!どした?
アスカ→なんでもなかったんだけど、今日暇だったらケイタんち行ってもいいー?
僕→あっ!暇っちゃ暇だけど!何時頃?
アスカ→ケイタがだいじょぶな時間だったら。
僕→あと、30分ぐらい後だったらだいじょぶだよー!
アスカ→うん!わかったぁ!
僕→ウチわかる?
アスカ→国道のセブンの近くでしょ?
僕→うん!
アスカ→近くなったら電話するね。
僕→はいはーい!
電話を切った後、落ちついて考えた。
昨日は涼子がアパートに来て、今日の昼間はアスカが来る。
取っ替え引っ換えアパートに女性を連れ込んでるような感覚を憶えた。
軽く掃除機をかけ、換気、有る程度綺麗になったアパート。
今からアスカがアパートに来ることを考え過ぎて、キッチンの洗い物は半端になっていた。
昨日は突然の涼子の訪問だったから、構える余裕はなかったけど、今日は30分の猶予が与えられたから、アスカがアパートに来て、何をするか、何を話すか、余計な事まで考えてしまった。
30分後。
アスカは予定通り僕のアパートに到着。
「お邪魔しまーす!」
「ごめんね!軽くしか掃除してないけど。」
「うーうん。気にしない気にしない!てか、私男の独り暮らしの部屋初めて入るー!」
「へぇー!そーなんだぁ!まぁ、適当に座って!なんか飲む?紅茶とかあるけど。」
「それじゃぁー、紅茶いただこうかなぁ!私も手伝うよ!」
アスカはキッチンに立って、半端になっていた洗い物をしてくれた。
二時間ぐらいだろうか、二人適当な世間話だったけど、好きな人と二人きりのアパート。程よい緊張感とか、小さいけど幸せも感じた。
珈琲を炊こうとソファから立ったときだった。
ソファにかけていたカバーがズレて、明らかに女性用とわかるリップクリームが転がり落ちた。
(まぢかっ!昨日涼子が落としていったやつじゃん…)
と、心の中で。
焦る僕を横目に、アスカは、すかさずリップクリームを拾い、僕に渡し返す。
「ケイタ!女性用のリップなんてつけるんだぁー?変わってるね!」
と、アスカは笑いながら、違う女性の影を感じたのだろうか、明らかに怪しんでる感が表情に出ている。
勿論僕はそれ以上に、何て言い訳しようかと考えているわけだから、焦りが表情に出ていただろう。
「あっ!それいつのだっけかなぁ…この前親戚の姉貴来た時忘れていったのかなぁ?」
正直、親戚に姉貴なんていないし、軽くアスカに嘘とごまかしを言ってしまった。
「ねぇ?ケイタ?ケイタって嘘つくの下手くそだね…。顔に出てるよ。」
「えっ⁉︎嘘じゃないよー!なんでぇ?」
「だってさぁ〜!あんまり言いたくないけど、キッチンのグラスとか空きカン!」
「えっ⁉︎なに?グラスがどしたぁ?昨日飲んだやつだけど…。」
「ねぇ?ここまで言って、まだごまかすの?」
「だから、なんだってぇ?」
「もぉー!ほんと男って鈍感って言うんだか、何だか…。グラスに口紅付いてたよ!さっき昨日飲んだって言ったよね?ねぇー?言ったよね?どこの女と飲んでたんだしっ?どぉせ、そのリップもその女が忘れていったやつでしょ?」
僕は何も言葉が出なかった…。
唖然として、アスカの目を見つめたけど、アスカはすぐに目をそらした。
「違うって!いや、違くないよなぁ…。」
と、酷く落ち込む僕。
「はぁ?違くないでしょ?私はなんなの?確かに、付き合ってるわけじゃないけど…どぉして、那須にドライブ行ったり、さんざんデートしておいて、期待させるだけさせて、最後に、こーいう終わり方?ケイタってほんと最悪!どぉせ、色んな女、アパートに連れ込んで、毎日楽しんでるんでしょ?」
マシンガンのような、次々とアスカから発せられる言葉は、僕の心をズタズタに切り裂いた。
何も言えず、沈黙すること10分。
「私、帰るね!もぉ会わないから!ってか、LINEも消して!ほんとに会いたくないから!」
「なぁー!アスカちょっと待ってよ!」
「いやっ!もぉケイタと話す事はないからっ!」
玄関先まで勢いよく歩くアスカ。
「ちょっと待てって!」
僕は、アスカの左腕を強く掴む。
「なにー⁈」
怒った表情でアスカは手を振りほどこうとする。
「アスカはもぉ話す事はないかもだけど、俺にはまだある!だいたい、女を毎日の様に連れ込んでなんかいないし、アスカの事はほんとに心から思ってる!昨日飲んだ人は、友達で、ほんとに何でもないから!じゃなかったら、デートにも誘わないし、那須にも行かなかったし…。アスカとの事を、本気で考えてるからっ!」
アスカはしばらく黙り込む。
「ねぇー?今からドライブ連れてってよ!」
と、静かにアスカは口を開いた。
「えっ?」
「とびっきり、夜景が綺麗な場所にドライブ連れてって!」
「あっ!ぅん…。」
「これで許したわけじゃないからねっ!!わかってんの?わかったんなら、早く車だして!!」
「ぅん…。」
それから、アスカと僕は四時間、沈黙の夜間飛行に出た。
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猫と蝶と僕④
アパート駐車場を見渡したその時だった。
「こんばんわっ!」
僕はビックリして、アパートの下にまとめて設置してある、郵便受けに肩を思い切りぶつけた。
「いってっ!!!」
警戒していたから尚更の事だったのかもしれない。
僕はその声がする方を振り返った。
「りょ!涼子!」
「ごめんねぇ…。ビックリさせちゃって」
「おっー!どしたぁ?久しぶり!」
「ってか!あれっ?俺のアパートなんで分かったのぉ?」
少し気味悪いような、ストーカーまがいな雰囲気を押し殺して、涼子に質問を返した。僕は涼子にアパートの住所を教えてなかったから尚更のこと。
しかも、カモミールで会った以来LINEすらもしていなかったから。
「あっ!ぅん…。たまたま…。ケイタが焼き鳥屋からでて来るところ、セブンで見かけたから、少しでも話せたらと思って、追いかけちゃった…。」
「あー!そぉだったんだぁ!ってか!ゴメンねぇ…。LINEとか、連絡返せなくて…。」
「うーうん…。だいじょぶ!きっと忙しいんだろうなぁって思って。だからさぁー!少しでも、直接話せたらと思ってさぁ。ねぇ?突然なんだけど、これからちょっと飲まない?」
話のニュアンス的に、一瞬胸を撫で下ろした。セブンと道路一本挟んだら、アスカとのデートの一部始終は見ていないだろうと踏んだからだ。セブンは焼き鳥屋を道路ニ車線で、挟んだ斜め向かいの位置。僕とアスカが帰る時の交通量の多さから判断すれば、おそらく判断つかないだろうと勝手に憶測していた。
だからこそ、普通のニュアンスで返答できていたと思っていた。
「いやっ!俺はだいじょぶだけど…。もぉ時間が時間だし、居酒屋終わってるよ!」
何か、二人でいる空気を打開するかのように言葉を発した。
すると、涼子は自分の背後に持っていた、セブンの袋を手前に出し、中に入っていたビールと焼酎の瓶を僕に見せつけた。
「ジャーーーン!ねぇ?ケイタ?上がって行ってもいいー?少しくらい付き合ってよね?」
涼子はいつの間にか、僕を追い越し、
「ねぇ?ケイタ!二階?一階?どっち?そぉと決まったら、早く飲もーよぉ?」
と、振り向きながら一階の踊り場で、僕に問いかける。
別に一緒に飲むことを承諾したわけでもないのに…。
この時ばかりは、涼子の蝶の様な上品さは感じられなかった。けど、ヒラヒラと空へ登って行ってしまう様な、僕の手からすり抜けて行ってしまう感覚を感じた。
あの子供の頃に感じた、蝶を捕まえようとしても、虫取り網からすり抜けていく感じ…。
でも…。
僕のその時の感情は、涼子を自分の物(女)にしたいという感情ではなくて、僕のアパートに上がらせるのを阻止するために、涼子を捕まえたかった感情だったと思う。
瞬間的に、涼子を阻止する計画は僕の頭の中ではたてられなかった。
僕は仕方なく、二階の203号と涼子に伝え、考え事をするように、ゆっくり階段を登った。
「俺の部屋片付けてないから、汚いよー!ちっと待って!軽く片付けるから!」
ようやく出た僕の言葉が、この言葉だった。
「うん!」
素直で迷いがなさ過ぎる涼子の言葉。
僕はフロアーに散らばった、服を片っ端から洗濯機に放り込み、軽くファブリーズを室内に吹きかけ、涼子をアパートに招き入れた。
「お待たせー!ゴメンなぁ…汚くてぇ…。適当に座ってぇ!」
キッチンの皿とかグラスを洗いながら、カウンターキッチン越しに涼子の座る背中に声をかける。
「ぅーうん。逆にゴメンねぇ…。ねぇ?手伝おうっかぁ?」
と、涼子は座りながら、振り返る。
「てかっ!ケイタの部屋オシャレだね!DJとかもあるしっ!ねぇ?これどぉやってヤルの?」
話は涼子から一方的だ…。
でも…。
なぜか、久しぶりにあった涼子…会話している内に、胸の鼓動が高鳴ってくる。
ほんとに男って卑怯な生き物だ。
それは僕に限ってだけかもしれないが…。
以前にも感じた、この不思議な感情。
昼間アスカとデートしてきて、夜は夜で、涼子と二人っきりの部屋。
結局僕自身がふらち、というか、気持ちが軽い男なのか…。
アスカとの距離が縮まって以降、涼子に対して感じたことのなかった感情が胸の奥、脳裏を駆け巡った。
やっぱり年上の女性に僕は本当に弱い…。
振り向く涼子に、またしても情が入ってきている。
「いやっ!だいじょぶだよ!今洗いもの終わったからぁ!はいっ!これグラス!」
乾いたタオルでグラスを拭く音が、キュッ!キュッ!と、やたら乾いた音で室内にこだました。
その音が、これから二人は、どんな空気になっていくんだ!というように、二人の間柄を縮めて行った。
グラスを涼子に渡す。
「ありがとっ!時間も時間だし、飲もうっかぁ!」
僕は既にそれ相当の量の酒を飲んでいたけど、涼子に合わせてビールに口をつけた。
「ねぇー?最近の恋愛バラエティ番組見てる?なんだっけかぁ!?番組名?あっ‼︎テ○スハウス!」
「あっーー‼︎はいっ!はいっ!俺も見てるわぁー!つーか、あれって、ヤラセなんじゃねーのぉ?」
と、僕は涼子に合わせて会話に乗ってみる。
「いやっ!あれは、番組が車と部屋しか用意してないって言ってるし!毎回、番組の冒頭で、そぉ言ってるからヤラセじゃないんじゃん。」
と、涼子。
「へぇー!そぉなんだぁ!じゃぁ!ガチの番組なんだねー!ほらっ!ひと昔前に、あい○りっていう番組あったじゃん!それっぽいと思ってさぁー!」
と、俺。
そんな会話30分ぐらいした。
ところが、そのあと10分ぐらい二人無言の空気。
ほんとに微妙な空気だ。
仕方なく、TVを付け、何とか場を持たせようとした。
ビールを飲み飲み、そっと涼子が口を開く。
「ねぇーケイタ?」
「んー?」
僕は、アスカとの件を聞かれると思い、焦る。
何て、言い訳をしようかとも考えられないぐらい。
「なんか、私たちも、あの恋愛バラエティの中の二人みたいじゃない?TVは入ってないけどさぁ…。」
「えっー⁉︎」
あまりにも予想もしていなかった唐突な言葉、しかも、そんなに、その番組を長く見てるわけでもなかったから、正直返答に困って、
「いやいやぁー…。そぉかなぁ…。
逆にどんの辺がぁ?」
と、薄ら笑いをする。
「だからっ!わっかんないかなぁ…?」
と、少し強い口調で返す涼子。
後で理解したが、結局僕と涼子との関係とか、二人の現在の距離とか。
涼子は、その番組に例えて、僕に今の気持ちを伝えたかったんだろう。
すると、涼子から直球、ど真中、150キロのボールという名の言葉が飛んできた。
何とも機転がきく人だ。涼子は。
「ねぇ?昼間の女の子だーれぇ?二人でどこ行ってきたの?」
と、不敵な笑みを浮かべて涼子は僕を尋問するようだ。
「いやっ!友達!ほんとに!ふつーに友達だよ!」
と、僕はやっと思い浮かんだ言い訳を涼子に返球した。
「へぇー?そーなんだぁ?なんかさぁ?すっごく仲良さそーだったからさぁ…。飲み物とか、飲ませてもらってたし…。しかも…あんなケイタの嬉しそうな顔見たことないしさぁー!」
何か、涼子から憎しみのようなニュアンスの言動が浮かんだ。
「いや!ほんとに友達だって!」
正直僕は冷汗がたらたら。
平然を保とうとすればするほど、声に異変が表れる。
「そーいえばさぁ?ケイタ、前に言った友達からの付き合いのこと考えてくれた?」
ほんとに、涼子はいつでも直球だ。次から次に。
しかも、キャッチャーの僕にとっては、受けたことの経験がない程の直球に捕球が困難。
それに対してアスカは、いつも変化球。しかも僕にでも捕球できる。
球筋も見えていたし、柔らかな球に最近は甘えていたから。
アスカに対しては、キャッチャーの僕から出したサインに対して、カーブならカーブで投げてくる。スライダーならスライダー。しかも、アスカと僕ならば、一緒にいる時間もおおかったし、サインに間違えがあっても、誤魔化しで捕球できる。いや!いつの間にか、誤魔化しで捕球してきてのかもしれない。そこに、俺とアスカとの最近の関係があったのかもしれない。カモミールでの涼子との食事の帰りに、アスカとバッティングしたときの、アスカに対しての僕の逃げ姿勢に表されるように。だから…。
尚更涼子からの直球にはこたえた。
「んー…。一週間ぐらいほんとに、考えたよ!けど、まだ知り合って時間もたってないしさぁー!その付き合うってところまで、正直考えがつかなかったんだ…。」
「なにそれぇ…?男と女の関係って、時間もへったくりもなくない?」
と、涼子はスッと返答。
「いや!大切な事だと俺は思うよ!変に付き合って、相手を傷つけたくないしっ!」
すると、涼子は膝立ちして僕をカーペットの上に押し倒した。
「えっ⁈なにっ!!!」
焦る僕。
涼子は僕の肩を両手で抑え、僕の膝の上にまたがる。
すると、涼子は着ていたブラウスのボタンを一つ外して、
「こーすればわかるでしょ?男って、単純だから!これで好きになってくれる?」
またがった拍子に、涼子の膝丈ぐらいまでのスカートが、徐々に上に上がる。
さらに涼子は、ブラウスのボタンを二つ三つと外す。
胸元がいやらしく、目に入ってくる。
スカートの短さが、さらに男の心を揺さぶる。
涼子の目をじっと見つめる。
瞳にいっぱいの涙を溜めて、涼子は今にも泣き出しそうだ。
更に涼子の目を見つめて、僕は起き上がり、涼子の両肩に触れる。
「涼子!待って!だめだって!こんなこと!俺はこんなことされても好きになれないよ!ボタン締めて!ほらっ!」
涼子は、溜まりに溜まった涙をたくさんこぼし、泣きじゃくる。
「涼子!ごめんなぁ…。まだ俺らは付き合うには、お互いを知らなすぎだよ!なんでそんなに焦ってるの?」
涼子はしばらく泣き続けた。
「ケイタが初めて…。あんな状態になっても、ベットに入らなかった男。ほんとにありがと!私、焦ってるわけじゃないんだけど、一回前の恋も、二回前の恋も、やって捨てられたり、お金ばっかり頼られて、いらなくなったら邪魔者にされちゃうし、ほんと今度の人は、今度の人はって…そぉ思って!私にだって幸せな恋が訪れてもいーじゃん…。」
僕は涼子の胸元のボタン二つ締めてあげ、カーペットに座り直させた。
「辛い恋ばっかりしてきたんだね…。男ってそんな奴ばっかりじゃないと思うよ!だからこそ、焦んないで、ゆっくり関係を築いて行ける人を見つければいーじゃん!」
しばらく涼子は黙り込む。
「ぅん…。ケイタ何回も言うけど、ほんとありがとねっ!あとごめんね…。」
「ぅーうん。だいじょぶ!」
「私帰るねっ!」
すると、涼子はバックを肩にかけ僕のアパートから静かに出て行った。
何も声をかけられなかった。
その時ばかりは、涼子は蝶の様で、僕の手のひらから、スッとすり抜けて行ってしまうような感覚だった。
涼子が残して行った缶ビールが、僕一人の薄暗いアパートに、やたらと際立ち、二人の今後を考えさせた。