恋愛携帯小説シリーズ

猫と蝶と僕⑥


アスカとの夜間飛行という名のドライブ。

アパートを出てから二時間は、会話がなかった。

というよりも、アスカは完全シカト状態。

正直、何でドライブに誘ったんだよ!って心底思った。
女心がほんとに読めない男だ、僕は…。


出発して二時間半。

「ねぇー?ナビも設定しないで、どこ向かってるの?」

アスカの初めて言葉。

「あ!ぅん…。」
久々の会話で、僕は何て返事をすればいいのか戸惑った。

「ぅん…。じゃないよー!」

「…………。」
僕は無言。

「ねぇー?もぉ怒ってないからっ!ちゃんと質問に答えてよっ!」

「織姫公園…。」

やっと出た言葉。

織姫公園は、栃木県足利市にある、日本夜景百選に選ばれる夜景スポット。
(引用)
http://yakei.jp/japan/spot.php?i=orihime

「アスカ…。俺ほんとに昨日飲んだ人とは何でもないから…。ただ相談聴いてもらっただけだから…。」

「もぉ…わかったから!その言葉信じるからねっ!」


この二人の会話が終わる頃、僕たち二人は、織姫公園の山頂に到着した。


アスカは夜景を車内から確認すると同時に、助手席のドアを思い切り開けて飛び出した。

周囲に車も止まってる様子も無く、ひと気も全くない、真っ暗闇。

僕は、突然のアスカの行動に、慌ててアスカを追いかけた。

「アスカー!真っ暗だから、危ないよー!足元気をつけないとっ!」


「えっー⁈なーにっ⁈ケイタも早く来なよ!すっごく綺麗だよ!」

やっとのことでアスカを追いかける僕。

アスカは再び僕のところまで戻ってきて、僕の手を引き、展望台まで引っ張っていく。

以前にこんな光景あったっけ…。
那須デートだったか…。

「日本の夜景百選に選ばれてるんだって!」
と、僕。

「てかさぁー!ケイタ!こんな綺麗な夜景知ってたんなら、もっと早く連れてきてよー!」

アスカは、数分間夜景を見つめて何も発しない。

「なぁー?」
と、同時に、
「ねぇー?」
と、アスカ。

「なにっ?先言っていーよぉ!」

「いやっ!そっちが先でしょ?」


「明日休み?」
と僕。

「ぅん…。ケイタわぁ?」
とアスカ。

「ぅん…。休みぃ。」
ほんとは、休みではない…。でもとっさに出た言葉。

その時点では、明日は風邪を理由に休もうと思ってた。

「ケイタって!ほんっと嘘がヘタ!」

「はぁー?」

「顔に書いてあるよ!バリバリ仕事だよって!」

「………。」
沈黙する僕。

「ほらっ!まただんまり!ケイタ得意の!」





すると、僕は夜景に向かって、




「今、仕事より大事な事がある!大切な人の隣に、できるだけ寄り添っていたい俺がここにいる!仕事一日を蹴ってでも一緒にいたい奴がここにいるーーーー!」

と、叫んだ!



アスカは突然の僕の大声に、びっくりして、僕を見つめる。


すると、アスカも夜景に向かって、

「わたしも、明日を忘れられるくらい素敵な思い出を作れる人の隣にいたいーーー!すっごくウソがヘタくそで、不器用な人だけど、すっごく優しい人ーーー!この先も一緒に、ずっとずっとずっと!一緒に居てくださいーーー!」


僕はアスカの方をあえて見ず、

「いっつも勝手で、ワガママだけど、甘え上手で、笑った顔が可愛くて、守ってあげたくて、、、」

と、僕が立て続けに叫ぶと、アスカは僕の方へ突然駆け寄って来て、僕に抱きついた。

「びっくりしたっ?!重いでしょ?」

と、アスカ。

突然の事にアスカの瞳を見つめる度、鼓動が高鳴る。

「いや!重くはないけど!」


「ちゃんと告白してよねっ!バーカっ!」
と、アスカ。

「告白したよ!」

「さっきのはさっきの!ちゃんと言って?!全く女心が全くわかんない男!」


「好きだよ…。」
と、小さな声で僕。

「えーっ⁈聞こえない!さっきの叫び声はどこ行ったの?」

「だから好きだって!」

「もっと大きな声でっ‼︎」


「だ!か!ら!好きだってっ!!ずっと一緒に居てくださいっ!!」


「やればできるじゃん!」
と、上目線でアスカ。


この日アスカと僕は正式に恋人関係になった。

ドライブの帰りは、幸せな車内だった。

これ程までに幸せな感情は、忘れかけていたから…。

なおさら…。

優しい言葉見つけてはアスカに伝え、アスカもその言葉を更に愛のこもった言葉で返してくれる。


そんな幸せな恋愛が、この先も続いてくんだと思っていた。



二人はアパートに到着し、その日アスカは僕のアパートに泊まって行った。

アスカがシャワーを浴びてる時、ふと携帯を確認する。


涼子からのLINE。



僕は、もうアスカと恋人関係だし、真剣に付き合い出したアスカに対して、後ろめたさとか、傷つけたくないという気持ち…。いや!それ以上にアスカを好きだから、もぉ涼子とは関係を持たないと決心した。

LINEをブロックした。電話番号も消した。



そんなこんなで、アスカは仕事が終わると、僕のアパートにほぼ毎日のように来てくれた。

毎日二人で料理して、一緒に食べて、飲む時は飲んで。

半同棲の様な、新婚生活の様な、幸せな毎日だった。

涼子の存在なんて、正直忘れていた。


うだるような夏の夕暮れ。

会社から帰宅して、ふとアパートのドアに着いている郵便物を確認する。

電気の領収書と、何も書いていない封筒が一枚。

鍵を開けて、室内で封筒内を確認する。



僕は正直焦った。焦りより恐さの方が大きかった。


(最近、LINEも返してくれないね。あとケイタのアパートに女の子がいるみたいだね。彼女でもできたのかな…。私は今後どうすればいーのかな…。涼子。)

と、赤い字で。


室内の暑さからくる汗ではなかった。完全に冷や汗だ。

アスカが帰ってなかったから、まだ良かった。

僕は焦りながらも、その手紙を、小さく小さくちぎり、アパートの前を流れる側溝に流した。

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猫と蝶と僕⑤


涼子が帰った後、焼酎のボトル一本を軽々と一人であけ、床に就いた。

けど、なかなか眠りにつけない。
涼子との関係を考えれば考えるほど…。
やっと眠りについたかと思うと、浅い眠りで、アスカと涼子が脳裏に浮かんでくる。


朝7時半。

目覚ましが鳴る。

日曜日なのに目覚ましを設定していた自分が腹ただしい。
しかも、昨夜からほとんど眠れていなかったから。


目覚ましのスヌーズを解除すると、LINEに①と表示。

涼子からだった。

(昨日はほんとごめんね…。ケイタのアパート勢いで出て行ったけど、代行来るまで、だいぶかかったよf^_^;
こんな私だけど、少しずつケイタとの距離縮めて行きたいから。嫌いにならないでね。また一緒に飲んでね!)


眠さと頭がぼっ〜としていて、文章をサラッと読んで、また眠りについた。


昼。
自然に目が覚めた。

リビングでタバコに火をつけ、オレンジジュースを一気飲み。


昨日飲んだ空きカン数本とグラスをキッチンに片付けた。

思い出したかのように、涼子にLINEを返す。

(俺んちで、代行呼んでから出ればよかったのに!少し小雨降ってたでしょ?濡れなかった? 涼子の事は、嫌いになんかならないよ!また近い内飲もうなっ!)


涼子にLINEを返し、シャワーを浴びた。

濡れた髪をバスタオルで拭きながら、パンツ一丁でリビング。


不在着信だ。
項目を開くと、アスカからだった。

すぐ様、折り返し電話。


僕→もしもし、電話ごめんね。シャワー浴びてたのよ。

アスカ→もしもーし!あっ!そぉだったんだぁ!今だいじょぶ?

僕→ぅん!だいじょぶだよ!どした?

アスカ→なんでもなかったんだけど、今日暇だったらケイタんち行ってもいいー?

僕→あっ!暇っちゃ暇だけど!何時頃?

アスカ→ケイタがだいじょぶな時間だったら。

僕→あと、30分ぐらい後だったらだいじょぶだよー!

アスカ→うん!わかったぁ!

僕→ウチわかる?

アスカ→国道のセブンの近くでしょ?

僕→うん!

アスカ→近くなったら電話するね。

僕→はいはーい!


電話を切った後、落ちついて考えた。

昨日は涼子がアパートに来て、今日の昼間はアスカが来る。

取っ替え引っ換えアパートに女性を連れ込んでるような感覚を憶えた。

軽く掃除機をかけ、換気、有る程度綺麗になったアパート。

今からアスカがアパートに来ることを考え過ぎて、キッチンの洗い物は半端になっていた。


昨日は突然の涼子の訪問だったから、構える余裕はなかったけど、今日は30分の猶予が与えられたから、アスカがアパートに来て、何をするか、何を話すか、余計な事まで考えてしまった。


30分後。



アスカは予定通り僕のアパートに到着。


「お邪魔しまーす!」

「ごめんね!軽くしか掃除してないけど。」

「うーうん。気にしない気にしない!てか、私男の独り暮らしの部屋初めて入るー!」

「へぇー!そーなんだぁ!まぁ、適当に座って!なんか飲む?紅茶とかあるけど。」

「それじゃぁー、紅茶いただこうかなぁ!私も手伝うよ!」

アスカはキッチンに立って、半端になっていた洗い物をしてくれた。


二時間ぐらいだろうか、二人適当な世間話だったけど、好きな人と二人きりのアパート。程よい緊張感とか、小さいけど幸せも感じた。

珈琲を炊こうとソファから立ったときだった。

ソファにかけていたカバーがズレて、明らかに女性用とわかるリップクリームが転がり落ちた。

(まぢかっ!昨日涼子が落としていったやつじゃん…)
と、心の中で。

焦る僕を横目に、アスカは、すかさずリップクリームを拾い、僕に渡し返す。

「ケイタ!女性用のリップなんてつけるんだぁー?変わってるね!」
と、アスカは笑いながら、違う女性の影を感じたのだろうか、明らかに怪しんでる感が表情に出ている。


勿論僕はそれ以上に、何て言い訳しようかと考えているわけだから、焦りが表情に出ていただろう。

「あっ!それいつのだっけかなぁ…この前親戚の姉貴来た時忘れていったのかなぁ?」

正直、親戚に姉貴なんていないし、軽くアスカに嘘とごまかしを言ってしまった。

「ねぇ?ケイタ?ケイタって嘘つくの下手くそだね…。顔に出てるよ。」

「えっ⁉︎嘘じゃないよー!なんでぇ?」

「だってさぁ〜!あんまり言いたくないけど、キッチンのグラスとか空きカン!」

「えっ⁉︎なに?グラスがどしたぁ?昨日飲んだやつだけど…。」

「ねぇ?ここまで言って、まだごまかすの?」

「だから、なんだってぇ?」

「もぉー!ほんと男って鈍感って言うんだか、何だか…。グラスに口紅付いてたよ!さっき昨日飲んだって言ったよね?ねぇー?言ったよね?どこの女と飲んでたんだしっ?どぉせ、そのリップもその女が忘れていったやつでしょ?」


僕は何も言葉が出なかった…。

唖然として、アスカの目を見つめたけど、アスカはすぐに目をそらした。



「違うって!いや、違くないよなぁ…。」
と、酷く落ち込む僕。

「はぁ?違くないでしょ?私はなんなの?確かに、付き合ってるわけじゃないけど…どぉして、那須にドライブ行ったり、さんざんデートしておいて、期待させるだけさせて、最後に、こーいう終わり方?ケイタってほんと最悪!どぉせ、色んな女、アパートに連れ込んで、毎日楽しんでるんでしょ?」


マシンガンのような、次々とアスカから発せられる言葉は、僕の心をズタズタに切り裂いた。


何も言えず、沈黙すること10分。

「私、帰るね!もぉ会わないから!ってか、LINEも消して!ほんとに会いたくないから!」


「なぁー!アスカちょっと待ってよ!」

「いやっ!もぉケイタと話す事はないからっ!」


玄関先まで勢いよく歩くアスカ。

「ちょっと待てって!」

僕は、アスカの左腕を強く掴む。


「なにー⁈」
怒った表情でアスカは手を振りほどこうとする。


「アスカはもぉ話す事はないかもだけど、俺にはまだある!だいたい、女を毎日の様に連れ込んでなんかいないし、アスカの事はほんとに心から思ってる!昨日飲んだ人は、友達で、ほんとに何でもないから!じゃなかったら、デートにも誘わないし、那須にも行かなかったし…。アスカとの事を、本気で考えてるからっ!」


アスカはしばらく黙り込む。


「ねぇー?今からドライブ連れてってよ!」

と、静かにアスカは口を開いた。

「えっ?」

「とびっきり、夜景が綺麗な場所にドライブ連れてって!」

「あっ!ぅん…。」

「これで許したわけじゃないからねっ!!わかってんの?わかったんなら、早く車だして!!」

「ぅん…。」


それから、アスカと僕は四時間、沈黙の夜間飛行に出た。

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猫と蝶と僕④


アパート駐車場を見渡したその時だった。


「こんばんわっ!」

僕はビックリして、アパートの下にまとめて設置してある、郵便受けに肩を思い切りぶつけた。

「いってっ!!!」

警戒していたから尚更の事だったのかもしれない。

僕はその声がする方を振り返った。

「りょ!涼子!」

「ごめんねぇ…。ビックリさせちゃって」

「おっー!どしたぁ?久しぶり!」


「ってか!あれっ?俺のアパートなんで分かったのぉ?」

少し気味悪いような、ストーカーまがいな雰囲気を押し殺して、涼子に質問を返した。僕は涼子にアパートの住所を教えてなかったから尚更のこと。

しかも、カモミールで会った以来LINEすらもしていなかったから。

「あっ!ぅん…。たまたま…。ケイタが焼き鳥屋からでて来るところ、セブンで見かけたから、少しでも話せたらと思って、追いかけちゃった…。」

「あー!そぉだったんだぁ!ってか!ゴメンねぇ…。LINEとか、連絡返せなくて…。」

「うーうん…。だいじょぶ!きっと忙しいんだろうなぁって思って。だからさぁー!少しでも、直接話せたらと思ってさぁ。ねぇ?突然なんだけど、これからちょっと飲まない?」

話のニュアンス的に、一瞬胸を撫で下ろした。セブンと道路一本挟んだら、アスカとのデートの一部始終は見ていないだろうと踏んだからだ。セブンは焼き鳥屋を道路ニ車線で、挟んだ斜め向かいの位置。僕とアスカが帰る時の交通量の多さから判断すれば、おそらく判断つかないだろうと勝手に憶測していた。


だからこそ、普通のニュアンスで返答できていたと思っていた。


「いやっ!俺はだいじょぶだけど…。もぉ時間が時間だし、居酒屋終わってるよ!」


何か、二人でいる空気を打開するかのように言葉を発した。

すると、涼子は自分の背後に持っていた、セブンの袋を手前に出し、中に入っていたビールと焼酎の瓶を僕に見せつけた。

「ジャーーーン!ねぇ?ケイタ?上がって行ってもいいー?少しくらい付き合ってよね?」

涼子はいつの間にか、僕を追い越し、

「ねぇ?ケイタ!二階?一階?どっち?そぉと決まったら、早く飲もーよぉ?」

と、振り向きながら一階の踊り場で、僕に問いかける。

別に一緒に飲むことを承諾したわけでもないのに…。


この時ばかりは、涼子の蝶の様な上品さは感じられなかった。けど、ヒラヒラと空へ登って行ってしまう様な、僕の手からすり抜けて行ってしまう感覚を感じた。

あの子供の頃に感じた、蝶を捕まえようとしても、虫取り網からすり抜けていく感じ…。

でも…。

僕のその時の感情は、涼子を自分の物(女)にしたいという感情ではなくて、僕のアパートに上がらせるのを阻止するために、涼子を捕まえたかった感情だったと思う。

瞬間的に、涼子を阻止する計画は僕の頭の中ではたてられなかった。



僕は仕方なく、二階の203号と涼子に伝え、考え事をするように、ゆっくり階段を登った。

「俺の部屋片付けてないから、汚いよー!ちっと待って!軽く片付けるから!」


ようやく出た僕の言葉が、この言葉だった。



「うん!」

素直で迷いがなさ過ぎる涼子の言葉。


僕はフロアーに散らばった、服を片っ端から洗濯機に放り込み、軽くファブリーズを室内に吹きかけ、涼子をアパートに招き入れた。

「お待たせー!ゴメンなぁ…汚くてぇ…。適当に座ってぇ!」

キッチンの皿とかグラスを洗いながら、カウンターキッチン越しに涼子の座る背中に声をかける。

「ぅーうん。逆にゴメンねぇ…。ねぇ?手伝おうっかぁ?」

と、涼子は座りながら、振り返る。

「てかっ!ケイタの部屋オシャレだね!DJとかもあるしっ!ねぇ?これどぉやってヤルの?」

話は涼子から一方的だ…。


でも…。

なぜか、久しぶりにあった涼子…会話している内に、胸の鼓動が高鳴ってくる。

ほんとに男って卑怯な生き物だ。
それは僕に限ってだけかもしれないが…。

以前にも感じた、この不思議な感情。

昼間アスカとデートしてきて、夜は夜で、涼子と二人っきりの部屋。

結局僕自身がふらち、というか、気持ちが軽い男なのか…。




アスカとの距離が縮まって以降、涼子に対して感じたことのなかった感情が胸の奥、脳裏を駆け巡った。


やっぱり年上の女性に僕は本当に弱い…。

振り向く涼子に、またしても情が入ってきている。

「いやっ!だいじょぶだよ!今洗いもの終わったからぁ!はいっ!これグラス!」


乾いたタオルでグラスを拭く音が、キュッ!キュッ!と、やたら乾いた音で室内にこだました。

その音が、これから二人は、どんな空気になっていくんだ!というように、二人の間柄を縮めて行った。


グラスを涼子に渡す。

「ありがとっ!時間も時間だし、飲もうっかぁ!」


僕は既にそれ相当の量の酒を飲んでいたけど、涼子に合わせてビールに口をつけた。


「ねぇー?最近の恋愛バラエティ番組見てる?なんだっけかぁ!?番組名?あっ‼︎テ○スハウス!」

「あっーー‼︎はいっ!はいっ!俺も見てるわぁー!つーか、あれって、ヤラセなんじゃねーのぉ?」

と、僕は涼子に合わせて会話に乗ってみる。

「いやっ!あれは、番組が車と部屋しか用意してないって言ってるし!毎回、番組の冒頭で、そぉ言ってるからヤラセじゃないんじゃん。」

と、涼子。

「へぇー!そぉなんだぁ!じゃぁ!ガチの番組なんだねー!ほらっ!ひと昔前に、あい○りっていう番組あったじゃん!それっぽいと思ってさぁー!」

と、俺。


そんな会話30分ぐらいした。


ところが、そのあと10分ぐらい二人無言の空気。

ほんとに微妙な空気だ。

仕方なく、TVを付け、何とか場を持たせようとした。


ビールを飲み飲み、そっと涼子が口を開く。


「ねぇーケイタ?」

「んー?」

僕は、アスカとの件を聞かれると思い、焦る。
何て、言い訳をしようかとも考えられないぐらい。


「なんか、私たちも、あの恋愛バラエティの中の二人みたいじゃない?TVは入ってないけどさぁ…。」

「えっー⁉︎」

あまりにも予想もしていなかった唐突な言葉、しかも、そんなに、その番組を長く見てるわけでもなかったから、正直返答に困って、

「いやいやぁー…。そぉかなぁ…。
逆にどんの辺がぁ?」

と、薄ら笑いをする。

「だからっ!わっかんないかなぁ…?」

と、少し強い口調で返す涼子。

後で理解したが、結局僕と涼子との関係とか、二人の現在の距離とか。
涼子は、その番組に例えて、僕に今の気持ちを伝えたかったんだろう。



すると、涼子から直球、ど真中、150キロのボールという名の言葉が飛んできた。

何とも機転がきく人だ。涼子は。

「ねぇ?昼間の女の子だーれぇ?二人でどこ行ってきたの?」

と、不敵な笑みを浮かべて涼子は僕を尋問するようだ。

「いやっ!友達!ほんとに!ふつーに友達だよ!」

と、僕はやっと思い浮かんだ言い訳を涼子に返球した。

「へぇー?そーなんだぁ?なんかさぁ?すっごく仲良さそーだったからさぁ…。飲み物とか、飲ませてもらってたし…。しかも…あんなケイタの嬉しそうな顔見たことないしさぁー!」

何か、涼子から憎しみのようなニュアンスの言動が浮かんだ。

「いや!ほんとに友達だって!」

正直僕は冷汗がたらたら。
平然を保とうとすればするほど、声に異変が表れる。

「そーいえばさぁ?ケイタ、前に言った友達からの付き合いのこと考えてくれた?」

ほんとに、涼子はいつでも直球だ。次から次に。
しかも、キャッチャーの僕にとっては、受けたことの経験がない程の直球に捕球が困難。

それに対してアスカは、いつも変化球。しかも僕にでも捕球できる。
球筋も見えていたし、柔らかな球に最近は甘えていたから。


アスカに対しては、キャッチャーの僕から出したサインに対して、カーブならカーブで投げてくる。スライダーならスライダー。しかも、アスカと僕ならば、一緒にいる時間もおおかったし、サインに間違えがあっても、誤魔化しで捕球できる。いや!いつの間にか、誤魔化しで捕球してきてのかもしれない。そこに、俺とアスカとの最近の関係があったのかもしれない。カモミールでの涼子との食事の帰りに、アスカとバッティングしたときの、アスカに対しての僕の逃げ姿勢に表されるように。だから…。

尚更涼子からの直球にはこたえた。


「んー…。一週間ぐらいほんとに、考えたよ!けど、まだ知り合って時間もたってないしさぁー!その付き合うってところまで、正直考えがつかなかったんだ…。」


「なにそれぇ…?男と女の関係って、時間もへったくりもなくない?」
と、涼子はスッと返答。

「いや!大切な事だと俺は思うよ!変に付き合って、相手を傷つけたくないしっ!」



すると、涼子は膝立ちして僕をカーペットの上に押し倒した。

「えっ⁈なにっ!!!」

焦る僕。

涼子は僕の肩を両手で抑え、僕の膝の上にまたがる。

すると、涼子は着ていたブラウスのボタンを一つ外して、

「こーすればわかるでしょ?男って、単純だから!これで好きになってくれる?」

またがった拍子に、涼子の膝丈ぐらいまでのスカートが、徐々に上に上がる。

さらに涼子は、ブラウスのボタンを二つ三つと外す。

胸元がいやらしく、目に入ってくる。

スカートの短さが、さらに男の心を揺さぶる。



涼子の目をじっと見つめる。




瞳にいっぱいの涙を溜めて、涼子は今にも泣き出しそうだ。

更に涼子の目を見つめて、僕は起き上がり、涼子の両肩に触れる。

「涼子!待って!だめだって!こんなこと!俺はこんなことされても好きになれないよ!ボタン締めて!ほらっ!」


涼子は、溜まりに溜まった涙をたくさんこぼし、泣きじゃくる。

「涼子!ごめんなぁ…。まだ俺らは付き合うには、お互いを知らなすぎだよ!なんでそんなに焦ってるの?」

涼子はしばらく泣き続けた。


「ケイタが初めて…。あんな状態になっても、ベットに入らなかった男。ほんとにありがと!私、焦ってるわけじゃないんだけど、一回前の恋も、二回前の恋も、やって捨てられたり、お金ばっかり頼られて、いらなくなったら邪魔者にされちゃうし、ほんと今度の人は、今度の人はって…そぉ思って!私にだって幸せな恋が訪れてもいーじゃん…。」

僕は涼子の胸元のボタン二つ締めてあげ、カーペットに座り直させた。

「辛い恋ばっかりしてきたんだね…。男ってそんな奴ばっかりじゃないと思うよ!だからこそ、焦んないで、ゆっくり関係を築いて行ける人を見つければいーじゃん!」



しばらく涼子は黙り込む。



「ぅん…。ケイタ何回も言うけど、ほんとありがとねっ!あとごめんね…。」

「ぅーうん。だいじょぶ!」

「私帰るねっ!」


すると、涼子はバックを肩にかけ僕のアパートから静かに出て行った。

何も声をかけられなかった。

その時ばかりは、涼子は蝶の様で、僕の手のひらから、スッとすり抜けて行ってしまうような感覚だった。


涼子が残して行った缶ビールが、僕一人の薄暗いアパートに、やたらと際立ち、二人の今後を考えさせた。

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猫と蝶と僕③

STORY③

「あれっ⁈ケイタどぉしたの?」

立ち止まり、静止する僕に、涼子は不思議そうに声をかける。

「あっ…。ぅん…。なんでもない…。」

「やっぱりこのお店素敵だったねぇ〜。また来たくなっちゃうよねー?」

「ぅん…。そーだねぇ。」

僕はアスカが去ったお店の自動ドアをしばらく見つめていた。

「なんか、ケイタ変なの〜。とりあえず、今日はありがとねぇ。またLINEするから。またねぇー。」

「ぅん。またねぇー。」

代行を呼んで、アパートに帰宅。


アスカ…。

涼子とは、今は何でもないのに…。

この感情は、まさしく恋だ。

ただ、男の卑怯な面を言うならば、涼子も少し気になってしまっていて、アスカに対しても恋をしている様な。
だから、どちらも捨てきれない。

アスカは猫の様に、無邪気さとか、可愛らしさ、そして僕に笑顔を与えてくれる。

涼子は、蝶の様に、清楚で綺麗で、僕の事を支えてくれる様な、そして憧れの年上の女性。


アパートに帰宅後、芋焼酎をロックで飲みながら、一人で泥酔してしまった。


朝、起床すると、LINEに1と表示。

僕は、おそらく涼子からだと思った。

けど、LINEを開いた瞬間、驚いた。


アスカからだった。
「今度の休みいつ?週末、那須にドライブ連れてってよー♪( ´▽`)」


正直、僕は昨日の件があったから、アスカからは、もうLINEは来ないと思っていた。

アスカは涼子と二人で居た事対して、何にも触れてこなかったから、胸を撫で下ろした。

男ってこんなに卑怯なものなのか…。

アスカは昨日の件を忘れてるわけないし…。なぜに、こんなにまで普通のLINEを送ってくるのか。

恋愛から三年遠ざかっていた僕にとっては、到底理解できなかった。


アスカに、LINEを何度も打ち直した慎重な文で返した。

「週末は基本的には休みだから、大丈夫だと思うよー( ´ ▽ ` )ノアスカは、今週末でいーのぉ?那須の、リンドウ湖ファミリー牧場とか行ってみるー?」

昨日の件を探る様にLINEをするより、いつもと変わらない会話をしたほうがいいのではと考えたからだ。

涼子とは、何でもないってことをアピールするように、一緒にいたのは、親戚の姉貴とでも、理解してくれれば幸いです。というような。

LINEを送信すると、すぐ既読になった。


数分後。

「えー‼︎行きたいっ‼︎(((o(*゚▽゚*)o)))じゃぁー!土曜の朝七時に、カワチの前のセブン集合ねぇ〜。」

随分一方的に、アスカは予定を決めてしまう。

「あいよー( ´ ▽ ` )ノ俺、クルマ出すからぁー(^-^)/アスカは、イオンにでも止めた方がいーんじゃない?」

「ぅん♪( ´▽`)そぉするぅー(*^^*)」


その後、どこにでもある日常の会話をLINEでやり取りした。


結局、アスカとの一連のやり取りの中で、涼子とバッティングした件に関しては全く触れて来なかった。


そぉ言えば…。

昨日、あれだけ僕に対して告白めいた言葉を言った涼子からは、午後になってもLINEが来ない。

この時点では、アスカとは、関係が修復できていたつもりだったし、僕からあえて涼子にLINEを送るつもりはなかった。


月曜。

月曜の朝は憂鬱だ。

出勤したら、朝礼、営業会議、パソコン整理、だいたい行動は決まっている。

しかも、週始めと、週末の時間の流れは、明らかに違う。

月曜は、何回時計を確認しても、時間が進まない。

逆に、木曜、金曜は、週末がやってくる足音が聞こえるから、時間の進み方が僕の中では、二倍近く早かった。

なおさら、繁忙期を過ぎた、我が社は、いつも通りの忙しく見せかけた仕事だったし。

アスカとは、毎日のようにLINEのやり取りを繰り返したが、涼子からは木曜になっても音沙汰無し。

当然、アスカとのやり取りが増えるに連れて、お互いを分かり合えていってたし、アスカと僕は恋人関係の様な空気にもなっていた。

週末にかけて、比例して早くなる僕の一日は、土曜をあっという間に、迎えさせた。

土曜の朝、七時。


「おまたせぇー!これっ!ケイタ飲んでー!あとサンドイッチ作ってきたからぁー!」

「おーっ!ありがとっ!俺サンドイッチ大好物なんだぁー。」

「よかったぁ〜。でも味は保証できないよー!」
と、笑うアスカ。

「だいじょぶだよぉ〜!昼が楽しみだわぁー!そんじゃぁー出発すっかぁー!」


お気に入りの洋楽をかけて出発。


出発して数分だったか…。


交差点で信号待ち。


僕は、またしても会いたくない場面に遭遇する。

対向車線に信号待ちで、止まっていた車は、涼子の車だった。

僕は眩しくもないのに、慌ててサンバイザーをおろす。

けど、もぉ既に遅かった。

涼子は気づいてしまっていた。

交差点ですれ違う時、涼子は僕の車内をじっと見つめて走り去った。


那須への日帰りドライブ。

リンドウ湖にも行ったし、トリックアートにも行った。


地元を出発してから、しばらくは涼子のことを考えていたが、時間が経つにつれて朝のバッティングの件は薄れていった。

アスカは、どこに行っても僕の前を歩く。
何か見つけると、真っ先に僕をおいて猪突猛進。

そんなケースがたくさんあったから、アスカが走れば俺も走って追いかけて…。

正直疲れたけど、そんな無邪気なところが愛くるしかった。

僕が疲れて、追いかけられない時は、僕の所に戻ってきて、僕の手を握って連れて行ってくれる。

だから、アスカとの初めて手を握った時は、変なドキドキ感があった。

走って息が上がった心臓の鼓動か、もしくは、恋をしている心臓の鼓動か…。


帰りの車中。

ポケットのスマホが鳴る。

多分、涼子だと思ったけど、運転もしていたし、アスカとも会話が盛り上がっていたから、確認すらしなかった。

「ねぇー?ケイタ疲れてる〜?」

「いやぁー。なんでぇ?」

「帰ったら、居酒屋行かない?」

「あっ!いーねぇー!焼き鳥屋?」

「よーく、お分かりぃー!」

「じゃぁー!高速で早く帰ろっかぁー!?」

「うんっ!」



結局、居酒屋に行って、飲んで食べて、那須ドライブの件で話はひっきりなしだった。


アスカがお手洗いに立った時、携帯を確認した。

僕は驚いた。



涼子から、着信三回、LINE4通。


少し怖い雰囲気もあった。

内容も同じ様なことばかり。

涼子→僕
(携帯でれないですか?)
(どこかにお出かけですか?)
(既読にもならないのですが?)
など、など…。


まさか、アスカに話すわけにも行かなかったし、イロイロ考え出すと、雰囲気を壊すと思って、居酒屋を二時間程度で後にした。


「じゃぁなぁー!アスカ!またLINEするよー!」

「うん‼︎LINE待ってるからぁ!じゃぁねぇー!」

二人とも代行に別々に乗り込み、それぞれ駐車場を出た。

駐車場を出て数分。

運転手が

「お客さんの車の、すぐ後ろに、ずっと白い軽が付いてくるんですが、お知り合いの車ですか?」

「えっ⁈俺一人のはずですが?」

と、僕は後ろを振り返る。

まさか…。




涼子の白の軽。


たまたま涼子が同じ方面に走ってるのだと思った。

いや、そうであって欲しかった。


アパートに到着。


いつの間にか、涼子の白の軽はどこかに消え去っていた。

アパートの駐車場を見渡した、その時だった。










恋愛携帯小説シリーズ

猫と蝶と僕

STORY②


「今日残業できるかぁ?」

「いや!すみません。今日は定時で上がらせて下さい。」

「なんだぁ?彼女でもできたかぁ?」

「いや!そんなんじゃないですよ!」



夕方6時半、日が傾きかけて、西日が眩しかった。


「あっ‼︎着替え持ってくればよかったかなぁ…。まぁー、スーツでもいーかぁ。」

と、独り言を言う車内。


あのコンビニで会って以来の、彼女との再開。

正直、緊張していた。

10分前に、焼き鳥屋の駐車場に着いた。

車が数台止まっていたが、彼女の車をボンヤリとしか覚えていなかったから、LINEで連絡。


僕→君
(今着いたのですが…もぉ着いてますかぁ?)

君→僕
(一番端っこの白の軽です。)


LINEを数件やり取りし、駐車場で落ち合った。

「なんか、すみません。突然、お誘いしちゃって。」

「いやぁー!そんなことないですよー!とりあえず、中入りましょっか?」

「はいっ!」

第一印象というか、この前、コンビニで会った時とは、違う感情を覚えた。

彼女は私服と、スーツとでは全く違う装い。

コンビニの前で会った時は、不意打ちでの出会いだったから、特に特別な感情を持たなかったが、二人で、しかもプライベートで会う今回に限っては、全く違う感情を覚えた。


「いらっしゃいませー!」

スタッフの甲高い声が店内にこだまする。

「二名様でよろしかったでしょーか?」

「はいっ!」

「では、奥のテーブルどぉぞ!」


彼女の前を歩く僕。

「初めて入りましたよー!結構素敵なお店ですね?」

「ですよねー!私は二回目なんですけど、一回目来たときに、また来たいと思ってぇ!」


テーブルに二人着席。

「何たべましょっかぁ?」
と、君。

「あれっ⁈今日は、アルコールは飲まないんですか?」
と、僕。

「明日、土曜で休みですし、飲んじゃいましょっか?」
と、笑う君。

「そぉですね!飲んじゃいますかぁー!」

「名前なんて読んだらいーですか?」
と、君。

「ケイタって読んでくださいっ!」

「じゃぁー私は、アスカって読んで下さい。」


飲んでる内に、アスカと僕が同級生だということが判明した。


アスカは、高校野球が好きで、よくプロ野球の観戦にも行くようだった。

「なんか、おかしーよね?女の子なのに、野球が好きとか…。」

口に手をあてて、恥ずかしそうに笑うアスカ。

「いやぁー!そんなことないんじゃん!俺も、高校野球は好きで、去年の夏の甲子園は、甲子園球場まで行ってきたよー!」

「えーっ⁈いーな、いーなぁー!アスカも行きたーい!」

「来年でも行こーかぁー!高速バスで行くから、楽だし」

「えーっ⁈本当〜⁈絶対だよー!絶対!」

と、アスカはテンションが上がり過ぎて、自分の感情をコントロールできていないよーだった。

「あっ⁈ごめんなさい!何か、テンション上がっちゃって…。私、私突然テンション上がる時あるから、うるさい時は言ってねぇ…。」

「そんなことないよー!俺もテンション高い方が、賑やかで好きだしっ!」


いつの間にか、お互い敬語もなくなり、今日プライベートで初めて会ったようには思えなかった。

会話と時間が二人の関係を徐々に近づけさせた。

お互い、相手の事をさらに知りたくなってく。

これって、恋なのか…。


楽しい時間なんて、すぐすぎるもの。

居酒屋には、三時間ぐらい居たか。


「今日はありがとねっ。また誘ってもいい?」

「いやいや!こちらこそありがとっ!またどっかに行こーよ!」

「じゃー!今度は新しくできた、レストラン、カモミールに行こっ?」
と、アスカ。


僕は、ハッとした。

明日は、カモミールだった。

戸惑う僕に、アスカは不思議そぉな顔で言う。

カモミールは嫌なの?」

「あっ!違う違う!カモミール行ってみたいと思ってたんだぁ!」

「よかったぁー!あの店開店したばっかりって言ってたし、オシャレだって聞いたからさぁ。」



そうして、僕とアスカは居酒屋をあとにした。

「またねー!LINE送るからー!」



アパートに帰って一人。


不思議な感情だ。


なぜか、さっき別れたばっかりなのに、またすぐ会いたくなる。

明日のカモミールの件とか、忘れそうだった。
というか、別に行かなくてもいいのではないかって思うぐらい。

シャワーを浴びて、床につく。

アスカとの会話、そしてアスカの笑った顔。

全てが脳裏に焼き付いている。

まさしくアスカに恋をしてしまった。



土曜の朝。


柔らかな日差しがカーテンからこぼれる。

何気無く、テレビをつけると、今日の夜は快晴で、何とか流星群が見れるってアナウンサーが言ってる。

ふーん…。

何気無く聞き流した。

アスカと一緒に見れたらなぁ…。



LINEを確認する。

アスカ→僕
(昨日はありがとねっ!すっごく楽しかった。今度はどこに行く?)


僕→アスカ
(俺も楽しかったよー!今度さぁー、那須辺りに日帰りでドライブ行かない?)

アスカ→僕
(えー⁈行きたい!行きたい!)

僕→アスカ
(じゃー!来週あたりどぉ?)


ピーンポーン!

玄関ベルがなる。

宅急便だった…。

通販で頼んだ、レコードが届いた。

僕はなぜか、好きな人とか気になる人ができると、音楽と結びつけてしまう。

結局、この曲は、この人との思い出の曲というように。


その日は、夕方までDJを回し続けた。

夕方六時。

(あっ‼︎もぉこんな時間!やっべぇー!カモミール!)

僕は急いで、身支度をして、カモミールに向かった。


アスカと連絡を取り出してから、あなたにはほとんど連絡もとっていなかったから、正直カモミールに、あなたが来るのか不安だった。

僕→あなた
(お疲れ様です!今カモミールに着きました。)

あなた→僕
(すみません。五分ほど遅れます。着いたらエントランスで待ち合わせましょう?)

僕→あなた
(了解しました。)



エントランス。

「ご予約のお客様でしょーか?」

「はい!七時に二人です。まだ連れが来ていないので、ここで待たせて下さい。」


五分ほど経った。


エントランスの自動ドアが開く。

「すみません。遅れちゃって。渋滞に巻き込まれて…。じゃぁ座りましょっか?」

あなたは、夕方から降っていた雨のせいで髪が濡れていて、ひどく色っぽかった。

「雨ひどくないですか?風邪ひかないよーにして下さいね。」
と、僕はハンカチを差し出した。


「あっ‼︎ありがとう。そんなことまで気を使ってもらっちゃって。優しいんですね。」

「いやいやぁ〜、そんなことないですよ!」


テーブルに着席して、ワインで乾杯。


アスカとの飲みよりも、かなり緊張感が出ていた。

「事故の後、大丈夫ですか?首とか後で痛み出るときあるみたいですから。」
と、僕。

「私は、大丈夫です。それよりあなたの方が鞭打ちとかになりませんでしたか?」
と、あなた。

「いやぁ〜俺はピンピンですよー!てか、名前なんて呼べばいーですか?」
と、僕。

「私⁈私は、涼子って読んで下さい。あなたは?」

「俺は、ケイタって読んで下さい。」

涼子は、全ての行動において、おしとやかで振る舞いが上品。

その上、顔立ちも素敵で、胸も大きかったから、緊張からか、あまり涼子の顔を見れなかった。

目線は胸元にどおしてもいってしまう…。


とりあえず、アスカの時と同様に、趣味から始まり、それなりに会話は盛り上がった。

涼子は俺より、二つ年上。

年上の女性には、もともと憧れがあったし、会話の内容にしても、引きつけらるような話ばかりだった。

料理もほとんど出て、ワインもほどほどに飲んだ頃、涼子が突然、とんでもないことを言い出す。

「ケイタさん!私と、友達からでいーのでお付き合いしてもらえませんか?」

「えっ‼︎まぢっすか?」

涼子とこの店に入った瞬間から、涼子に合わせて、会話も丁寧にしていたつもりが、一気に緊張感が爆発したような。

「あー…。俺は、問題は無いですけど、こんな俺でいーんですか?」

「はい…。お願いします。」


アスカと、涼子。

ひどいジレンマだ。

昨日、アスカと急接近。

今日、涼子と友達からの付き合いの申し込み。

そんなこと考えている内に、僕はしばらく無言になっていた。

無言になってる自分にも気づかないほど。

「私…私。ほんと変なこと言ってごめんなさいっ。私じゃだめですか?」

「いやっ!そんなことないけど。少し考えさせて下さい。」


会計を済ませ、カモミールを後にしようとした瞬間。

エントランスの自動ドアが開いた。



僕はまさかの展開に驚いた。

自動ドアの向こうに居たのは、アスカだった。

僕を挟んで、アスカと涼子。

アスカは、女友だちと来たようだった。

僕に話しかけようとしたのだろうけど、後ろに涼子が居たから、遠慮したように、しかも悲しそうに、俺とすれ違った。


アスカとすれ違った後、すぐ僕はエントランス側を振り返った。

アスカは、俺と涼子をじっと見つめて、ソッポを向いて店内に入って行った。




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猫と蝶と僕


STORY1  


君は猫のようだ。

ほんとに気ままで、勝手で。

どこに行くのにも、僕には告げず、突然居なくなってしまう。

けど、君は自分が何かを求めている時、僕を頼る。
ここぞと、言わんばかりに…。

僕の肩に頭を寄せる君。

それが愛おしい。

泣きたい時に泣いて、いつの間にか、僕に寄り添ってくる。



そして…。


あなたは、蝶のようだ。

綺麗で、振舞いも上品で。

僕の肩に止まって、羽を休める。

けど、僕が動こうとすると、手を伸ばしてもスッと空に飛び立つ。

そして、あなたは、あまり話さない。
けど、話さなくても互いに通じ合っている。

それが、僕の癒しでもある。



今、君とあなたは猫と蝶に類似している。

しかも、同じ僕の庭で。




庭の木製のベンチにジッと座る君。

庭に咲くタンポポに羽を休めているあなた。

君とあなたは、僕の手の届くすぐそこにいる。





ある夏の暑い日。


コンビニで冷たいコーヒーを買う。

缶コーヒーの側面には、暑さと合間って、無数の水滴が現れる。


手から滑り落ちそうな、缶コーヒーのタブを開ける。

プシュッ!



そのままコンビニの喫煙所で煙草を貪る。


ドンっ!


「あっ!すいません…。」


黒のタイトなスーツパンツを履いて、上は清楚な白のシャツ。

黒のショルダーバッグを持った女性。

バッグの持ち替えの拍子に、僕の持っていた缶コーヒーにバッグがあたった。


カラン!カラン!

缶コーヒーが僕のスーツに飛び散り、転がった。


「あっ!ほんと、申し訳ありません…。スーツ!!」

その女性は、慌ててハンカチを出し、僕に差し出す。

「これ使って下さいっ!なんて、謝ったらいーか…。クリーニング代だけでも…。」

すかさず、バックから財布を探す。


僕も慌てて、煙草を吸い殻入れにもみ消し、スーツの状態を確認する。

「やっべ!あっ!でも大丈夫ですよ!気にしないで下さいっ!ほんと、大丈夫ですから…。」

「でも…でも、そんなわけにはいかないです…。クリーニング!!これ、私の名刺です。番号は私のものなので、クリーニング代分かったら、お支払します!」

「そんな…。大したことじゃないのに…。」


その女性は、コンビニに用があったのにも関わらず、コンビニには入らず、車にさっそうと乗り込み、走り去った。


僕は仕事上、スーツを着ることが多かったから、替えのスーツは幾らでもあった。

たまたま車にスペアのスーツパンツがあったから、それに着替えた。


あれから何日経ったか…。



何気無く、仕事をやり繰りし、忙しく見せかけた毎日を過ごしていた。

僕の仕事は、営業。

営業なんて、だいたいは車の中。

お得意先に出向いた時にだけ、深々と頭を下げ、心の中にある本心とは裏腹な行動の毎日。

だから、忙しく見せかけた仕事なのだ。

正直、仕事なんて、飲む為に使う金の製造ぐらいにしか思っていなかった。

僕の近年は、特別な女性の存在も薄れていたし。

仕事=遊ぶための金作りだった。




先日のコンビニの女性とか、クリーニングの事も忘れていた。

コンビニでタバコを買おうと、財布を出した時、財布の裏ポケットから一枚の名刺がこぼれた。


「あっ…。そぉーいえば…。」

思い出したかのように、車に戻り、名刺を再確認し、何気無く番号を登録した。


最近の携帯、いや、スマートフォンという奇跡の機械。番号を登録すると、すぐにLINEが登録された。

何かに、導かれているようだ。僕の行動は。







同じく、夏の暑い日。

会社の営業車で市内。

信号待ち。


ガコッ!!!


後ろから車をぶつけられた。


「おい!おい!営業車で事故かよ!参ったなぁ…。」

と、めんどくさそうな表情で車外に出ると。

「ほんと、すみません。ちょっとよそ見してて。ほんとにごめんなさい。」


あなたの顔を見て、俺はハッとした。


ハッとした理由は特別な感情ではなかったが、あなたは本当に顔立ちが素敵な女性だった。

こんな女性に車をぶつけてもらえるなら、何度でもぶつけて下さいってまで思えるような。


そんな下心の様な感情を抑え、

「とりあえず、警察呼びましょっかぁー!」

「ほんと、すみません。私、どうしたらいいか…。事故初めてで!」

「大丈夫ですよっ!とりあえず、落ち着いて!怪我とかは?」

「私は大丈夫です…。でもあなたは大丈夫ですか?」


ほんの数分で警察が到着。

あなたは、気が動転していて、会話になっていなかった。

事故処理後。

「えーと!ここからは、保険屋さんどうしの話なんで、お互いあまり関わりを持たないように!では、今後も気をつけて運転して下さい!」

警察は早々と走り去った。


あなたは、僕に近寄り、

「あとで、謝りに行きたいので、この番号登録してもらってもいいですか?」

「いや、いや!謝りなんて、大丈夫です!」

「でも…。でも、とりあえず登録して下さい。では…。すみません。ご迷惑をおかけしました。」


ここでも、何かに導かれて、あなたの番号もとりあえず登録した。



なぜか僕の会社は8月の暑い時期に、繁忙期やってくる。

お得意様が一つ二つと徐々に増える。

忙しく見せかけた仕事がいつの間にか、本当に忙しい仕事に変化する。

毎日のように残業、残業で携帯のLINEさえ確認しないまま、数日が過ぎた。




会社の昼休み。

喫煙所。


「この前の資料、部長に見せたかぁ?」

「あっ!はいっ!あの後、すぐ確認してもらい、ハンコをいただきました。」


ワイシャツのポケットからタバコを出して、火をつける。




何気なく携帯を見る。

LINEに2と表示。



(この前は、すみませんでした。クリーニング代分かりましたか?)


もう、一件を開けてみる。


あなた
「今度の土曜日の夜、空いてますか?」


よりによって、同じタイミング、同じ時間。

僕→君
(クリーニング代は気にしないで下さい。ほんとに大丈夫ですから!)

僕→あなた
「今度の土曜は、何も予定は無いですよ。」


LINEで二人の女性を相手にするのは初めてだった。

正直、彼女居ない期間3年の僕にとっては、絶好の機会、そしてチャンスなのかとも思えた。


(今度の金曜、夜空いてますか?)
(いや、特に何も無いですよ!)

あなた
「じゃぁー、新しく出来たレストラン、カモミールに行きませんか?」
「あーっ!いいですね。何時にしますか?」
あなた
「7時とかどぉですか?予約しますので。」
「わかりました。7時にカモミールの駐車場で。」



(金曜、新しくできた、居酒屋行きませんか?鳥洋って言う、焼き鳥屋さんなんですが。)
(あー!いーですね。行ってみたいと思ったんです。)
(何時がいいですか?)
(7時とかであれば。)
(分かりました。7時にお店で。)



君は、居酒屋を選択。しかも、焼き鳥屋。

あなたは、お洒落なレストランを選択。しかも、予約制の。

この時点では、あまり気にしていなかったが、お互い性格が出ている。



何も変わらない会社生活。一週間なんて、早いものだ。

繁忙期も終わりかけ、またいつもの、忙しく見せかけた仕事の毎日が戻ってきていた。

けど…。

ガキの頃の一週間、夏休みなんて、相当長かった気がするのに。

会社に入って、大人になって。

一日の早さには驚かされる。


そんなこんなで、金曜はすぐ訪れ
た。